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 アカシアの道

2001年3月

アカシアの道

  • 監督・脚本:松岡錠司
  • 原作:近藤ようこ(『アカシアの道』双葉社刊より)
  • 出演:夏川結衣、渡辺美佐子、杉本哲太、高岡蒼佑、藤田弓子
  • 製作:ユーロスペース、TBS、PUG POINT

2000年 日本映画 90分


“お母さん、私、ずっと手をつないでほしかった。”

この作品は、母と娘の葛藤の物語である。同時に自分と他者との危うい関係性の物語である。親子であろうとその例外ではない。
……現実と戦っている普通の人々の有り様を写した映画である。
                           監督 松岡錠司

子どもころ、母親から心の傷を受け、長い間家を出ていた娘が、母親がアルツハイマーをわずらっていることを叔母から聞き、一人暮らしの母親のアパートを訪ねるところから物語は始まる。

あなたは、お母さんのことをどう思っていますか?

子どものころ、母親から心の傷を受け、長い間家を出ていた娘が、母親がアルツハイマーをわずらっていることを叔母から聞き、一人暮らしの母親のアパートを訪ねるところから物語は始まる。

ドアを開ける母親(渡辺美佐子)の顔。そこには娘(夏川結衣)を見て、驚きながらも懐かしさに喜ぶ顔があると思っていたら、なんとも言えない憎らしそうな顔があった。部屋に入りお茶を入れるときも、厳しい表情ときつい言葉の連続。心底から、娘が憎いようだ。いったいこの親子はどうなっているのだろう。子どもとの間にいろいろとあっても、母親というものは、いつも子どものことを心配している存在ではないのんか……。

しかし、この母親は違うらしい。どうしてこんなにキツイ言葉ばかりが出てくるのか。これでは、娘がかわいそう……と、心が娘に同情していく。しかし、話が進むにつれ、子ども時代の母子関係が現れてくる。

冷蔵庫の中は缶ビールだけ、アイロン台には焼けこげた跡が数カ所、電気コードをコンセントに差し込まず掃除機をかけたり……。想像していた以上の母の病状に、編集者としての仕事も在宅でできるよう都合をつけ、娘は母との生活を始める。しかし、記憶が混乱している母への介護の暮らしは、精神的にも負担になってくる。

さらに、母は、昔のように厳しい言葉を娘にあびせかける。「教師にするためにおまえを大学にいかせているんだ。私も教師だったからひとりでお前を育てられたのよ。」娘を学生と思っているらしい。「ちゃんと勉強しているの? おまえのためを思って言っているんだから」小さいころから言われたこの言葉。「おまえなんか、生むんじゃなかった!」なじり続ける母に耐えきれず、ケンカとなった末、とうとう手を挙げてしまう。小学生のころ、自分に手を挙げた母と重なる。

娘が母を見ながら、小さかったころの母と自分とを思い出すという映像の繰り返しの中で、見ている者も、自分が小さかったころの母との関係をダブらせていく。

恋人に安らぎを求めても、母親がアルツハイマーと知ると離れていき、やさしい人だったと叔母(藤田弓子)から聞いた父を初めて訪ねてみても、頼ることはできなかった。そこで娘は悟る。「お母さん、わたしたち、ずっとふたりっきりだったよね……」 夫に甘えることができず、教師として、一人で娘を育てるために毅然として生きなければならなかった母親の立場を、娘は理解できるようになっていく。娘が母親を越え、関係が逆転すると、母に優しさを持つことができるようになり、それを受けるように、母も次第に穏やかになっていく。

アカシアの道

「お母さん……」 

病状が進み、年老いた母親に抱きつくとき、見ている者は、女性であっても男性であっても、自分の母を思うのではないだろうか。私自身も、73歳で独り暮らしをしている母の背中と重なり、思わず涙が流れた。娘は、子ども時代に甘えることができなかった分、今「お母さん……」と甘える。

台詞(せりふ)のない場面がけっこうあるのですが、これが映画のよさと思いました。母が何を思い、娘が何を思っているのか、言葉でなく姿で語らせるのです。何歳になっても、切なく、またいとおしくなる親の存在。

 

初日に、松岡監督、夏川結衣、渡辺美佐子らの舞台あいさつがありました。

この映画のスタッフ以下は、一般の人や映画美学校の卒業生たち。プロだけの現場と違い、おもしろい現場になったそうです。監督は、素人の彼らに、ムムッとくるときもあったようですが、次第に彼らの目が精悍(せいかん)になっていくのがよくわかり、その彼 らからエネルギーをもらったとか。

渡辺美佐子さんも、40年前の映画の全盛期の時代を思い出したそうです。その時のように、手作りの映画のよさを、また味わうことができたと喜んでいらっしゃいました。「脳が病む」ということは伺い知ることはできないので、どのように表現したらいいのか、役作りに悩んだそうです。クランクインは、アカシアの花がまっさかりの時期だったので、ラストのアカシアの道を母と子が手をつないであるく場面から撮影したそうです。病気が一番ひどくなっている状態から入ったのですが、それがかえってよかったと語っていらっしゃいました。

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