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 今日からはじまる

2001年9月

今日からはじまる

  • 監督:ベルトラン・タヴェルニエ
  • 脚本:ドミニク・サンピエロ、ティファニー・タヴェルニエ、
       ベルトラン・タヴェルニエ
  • 音楽:ルイ・スクラヴィス
  • 出演:フィリップ・トレトン、マリア・ピタレシ、
       ナディア・カシ

1999年 フランス映画 1時間56分


   決して壊せないものがある
   肉体の中に 大地の中にあるものだ
   この大地に––– ひとつひとつ
   小石を積んだ
   父が 祖父が積んだのだ

   雨にも 風にも耐えて
     積み重ねた夜には
   月光が影を作るように盛り上げた
   ソリの遊びができ 星にも届くようにと
   高く積んだ小山だ
   子供たちにその事を語ろう
       ………
   子供たちに語ろう
   先人たちや 父たちから引き継いだのだ
   その小山と 彼らの勇気とを
          ドミニク・サンピエロ作(「今日からはじまる」字幕より)

物語

舞台は、北フランスのかつて炭坑町で栄えた町エルナン。しかし今は、失業世帯34%という厳しい生活状況です。ダニエル(フィリップ・トレトン)は、この町にある幼稚園の園長。

ある日の午後、赤ちゃんをつれて娘を迎えにきたアンリ夫人が、乳母車を押して娘と一緒に家へ帰ろうと園庭を歩きはじめたとき、彼らを見送っているダニエルの目の前で、突然倒れてしまった。彼女は泥酔していた。しかしアンリ夫人は、恥ずかしさのあまり、子どもたちを置いてどこかへ逃げて行ってしまった。ダニエルはしかたなく2人の子どもを家に送ったが、そこには電気も水も止められた悲惨な状況があった。

この日からダニエルは、貧困から子どもたちを守るために行動を起こす。しかし、ダニエルの要望に役所はいい加減な対応しかせず、教育官との対立も深まっていく。役所との戦いに疲れたダニエルを、癒し、力づけてくれるのは、同居している彫刻家の恋人ヴァレリア(マリア・ピタレシ)、幼稚園のスタッフたち、そして福祉士のサミア(ナディア・カシ)だった。サミアの援助によってダニエルが切望していた4歳児の検診が実現した。しかし、切りつめられていく予算、増えていく園児の数……、現実は厳しくなっていく。

その日もいつものように車を走らせて幼稚園に出勤した。入口の鍵を開けようとして驚いた。廊下の植木鉢が倒され、壁に飾られていた園児たちの絵がことごとくはぎ取られて、教室も荒らされている。登園してきた園児たちも、不安になっている。その日は休園にして、ダニエルは先生たちと父兄の手を借り園舎を片づけた。犯人の少年たちを手引きしたのは、ヴァレリアの息子だった。ダニエルは、幼稚園のことで頭がいっぱいで、家に帰っても彼とのコミュニケーションがなかったことに気づく。さらに悲しい事件が起きた。アンリ夫人が、2人の子どもを道連れにして心中したのだ。援助できなかったこを悔やむダニエル、サミア、スタッフたち。ダニエルは園長を辞任しようと考えていた。

どうにかしてダニエルを力づけたいと思ったヴァレリアは、学年末の祭りのために、ステキなことを思いつく。ペットボトルにいろいろな色の水を詰めていく園児たち。いったい何が始まるのか。子どもたちは、キャッキャッと言いながら、楽しそうに水を入れていく。

いよいよ祭りの日。子どもたちは、色水が入ったペットボトルを、庭いっぱいに並べていく。そこへ、町のブラスバンドが行進してきた。ペットボトルの間を進むブラスバンドの後を、園児たち、父母や町の人々が続く。楽しく踊りながら陽気になっていく子どもたち。町が一つになっていく。不景気で暗くなっていた町が、陽気になっていく。子どもたちのうれしそうな顔を見て、ダニエルは再びやる気に満たされていった。

 

「今日からはじまる」を見ながら、「アンジェラの灰」「ミュージック・オブ・ハート」を思い出していました。その町の貧しさは、「アンジェラの灰」ほどではありませんが、不況の波は子どもたちの生活環境を変えていきます。日本でも、大手企業のリストラがすすみ、失業率が高くなっていくのが心配です。厳しい生活の中で奮闘する、園長とスタッフたち。役所と戦い、熱心に教育する彼らの姿は、「ミュージック・オブ・ハート」のロベルタ先生と重なります。

幼児虐待のニュースが後をたたないこのごろの日本ですが、このように教育に一生懸命になってくれる先生と、その先生に共感して子どもたちを育てようとしている先生、父兄、地域の大人たちを見ていると、自分のことで精一杯という生き方を反省させられ、心が洗われます。教職は「聖職」と言われた時代がありましたが、ダニエル先生のような先生は、実は、まだまだ大勢いらっしゃるのですよね。

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