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 ふたりのトスカーナ

2003年2月

Il cielo cade

ふたりのトスカーナ

  • 監督:アンドレア&アントニオ・フラッツィ
  • 原作:ロレンツァ・マッツェッティ著“Il cielo cade”(天使が落ちてくる)
  •    『ふたりのトスカーナ』 竹書房文庫
  • 脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ
  • 音楽:ルイス・バカロフ
  • 出演:イザベラ・ロッセリーニ、イェルーン・クラッベ
          ヴェロニカ・ニッコライ、ラーラ・カンポリ

2000年 イタリア映画 102分

  • 2000年イタリア、ジッフォニ青少年映画祭、金賞(最優秀賞)
  • 2000年ジッフォニ青少年映画祭 ブロンズ賞(最優秀女優賞)
  • 2000年フロリダ フォート・ローダデイル国際映画祭審査員賞(最優秀外国語映画)
  • 2000年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演女優賞、新人監督賞ノミネート
  • 2001年ベルリン国際映画祭ドイツ児童救済週間部門特別賞(最優秀作品)
  • 2001年ナストロ・ダルジェント賞新人監督賞ノミネート
  • 東京都知事推奨
  • 厚生労働省社会保障審議会推薦
  • 東京都教職員組合推薦

最後が、あまりにも悲しすぎる映画です。これが事実だとしたらひどすぎる……と思ってしまうのですが、これが実話なのです。

原作者であるロレンツァ・マッツェッティの伯母・カッチェンの夫、ヴィルヘルム・アインシュタインは、あの有名な物理学者アルベルト・アインシュタインの従兄弟にあたります。事実は、アルベルト・アインシュタインがアメリカへ亡命したので、彼への復讐としてヴィルヘルムを捕らえようとしたということです。

時代の激しい動きは、登場人物たちが熱心に聴いているラジオから、伺い知ることができます。

物語

1943年夏、交通事故で両親を失ったペニー(ヴェロニカ・ニッコライ)とベビー(ラーラ・カンポリ)は、父の姉にあたるカッチェン(イザベラ・ロッセリーニ)の元へ連れられてきた。カッチェンは、トスカーナ地方、フィレンツェ郊外に屋敷を構えるユダヤ系知識人ヴィルヘルム・アインシュタインと結婚していた。

ヴィルヘルムはペニーとベビーを引き取ることにする。屋敷には、ヴィルヘルム夫妻の娘、ペニーより年上のマリーと、ペニーと同じくらいのアニー、メイドのエルサとローザ、画家のマヤおばさんとその夫アルトゥロ、アニーにピアノを教えているピアノの名手ピット先生が一緒に暮らしていた。

ペニーは負けず嫌いで、察しが早い賢い子だった。姉としてベビーをかばい、悲しい思いをさせないよう気を配っていた。

アニーは、突然自分たち家族の中にやってきた二人が気に入らない。両親を失った二人に優しく接する母親の姿を見て、なにかと二人に辛くあたる。

ペニーとベビーは学校へ通いはじめる。放課後は土地の子どもたちと川に入ったり、木に登ったり、自然の中で自由に遊んだ。

教会の司祭が、なぜ二人はミサに来ないのかという質問に対し、ヴィルヘルムは、我が娘たち同様に、自分で判断できるようになってから選ばせると答えた。ヴィルヘルムには、彼なりの考えがあるようだ。

ある日、ヴィルヘルムの家を訪れた司教のケープを、ベビーが切ってしまう。現場を見ていないヴィルヘルムは、ベビーではなくペニーを叱る。その夜、ペニーは、「私は首をつる。だれからも愛されていない」とベッドの中で悲しみの涙を流す。

翌日、「首をつります」と書かれたペニーの置き手紙を見た人々は、大騒ぎでペニーを探す。家じゅうの人々が自分を探して右往左往している姿を見たペニーは、紐を首に巻いたまま皆の前に姿をあらわす。カッチェンは「愛しているわ」と優しく語りかけ、ヴィルヘルムも「これからは一番の友達になろう」とペニーを温かく抱く。

二人は、家の人々や友達と過ごしながら、大人の恋の世界に触れたり、ピット先生の楽しい音楽談義を聞いたりして、いろいろなことを体験していく。

時代は、変わる。国王の命令でムッソリーニが逮捕された。画家のマヤおばさん夫婦とピット先生は、この機会にスイスに避難することにした。ヴィルヘルムも誘いを受けるが断る。

連合軍との休戦が知らされたが、事態はますます悪化していく。ドイツ軍が進攻し、村人の車は軍に取り上げられ、学校も押さえられ、ヴィルヘルムの屋敷もドイツ軍の司令部として使われるようになる。空爆がひどくなり、村の人々は防空壕に逃げるが、ヴィルヘルムは家族が防空壕に入ることを許さない。

ドイツ軍によるユダヤ人狩りが、フィレンツェにも迫っていた。伯父さんが危ないと司祭から聞いたペニーは、ヴィルヘルムが連れていかれることを恐れ、泣きながら逃げてと訴えるが、なぜ危ないのかは知らない。しかし、英国軍の進軍を知ったドイツ軍は、慌ただしく屋敷を出ていった。

ヴィルヘルムは、村人らの助けを受けて屋敷を後にした。残ったペニーたちは、家から出ないようにして暮らしていたが、ある日、ラジオ放送で終戦を知る。窓から聞こえて来た音を英国軍と思い喜んで扉を開けると、そこには、ナチスの親衛隊が厳しい顔をして立っていた。

ヴィルヘルムの所在を聞き出そうと、カッチェンに迫る兵士。そのとき、英国軍が来たという知らせが入り、撤退命令が出る。ユダヤ人を処理していこうとカッチェンとマリー、アニーが銃殺される。泣き叫ぶペニーの胸元にかかる十字架を見た兵士は、「この二人はどうしますか?」という部下の問いに、「ユダヤ人ではないから」とそのまま立ち去る。

 

その後すぐ、家に戻り3人の死を知ったヴィルヘルムが自殺します。4人の葬儀で、司祭を先頭に棺を運ぶ村人たちの列の前に、半ズボンの英国兵が姿を現し、村人たちは大喜び、葬儀を忘れて踊り出します。カメラは、喜ぶ村人たちと、トボトボ進む葬儀の列を、遠くからシルエットで描きます。

もう少し早くヴィルヘルムが来てくれたら、もう少し早く英国兵がきてくれたら……。二人はまた保護者を失ってしまいました。悲惨な時代の流れをまともに受け、一人ひとりの出来事がどんなに辛く悲しくても、時は流れ社会は動いていくのだと、シルエットを見ながら思いました。

家に戻ったアルベルトに、悲しい結果を伝えるメイド役のジャンナ・ヤンケーッティーの演技が心に残ります。

「愛情を受け、人生の喜びをともにしてきたのに、死の瞬間に彼らから引き離された。この生は、私が<別の人種>だったという理由だけで、私に授けられたものである。すべての生存者は、この<特権>の重荷とともに、証言する義務を負っている。」こう語るロレンツァ・マッツェッティは、1944年に伯母と二人の従姉妹を亡くし、1961年、幼少期の体験をもとにこの原作を書きました。

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