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 クイール

2004年3月

Quill

クイール

  • 監督:崔 洋一
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  • 脚本:矢城潤一、原田哲平
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  • 原作:石黒謙吾・文、秋元良平・写真『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋刊)
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  • 音楽:栗コーダーカルテット
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  • 出演:小林薫、椎名桔平、香川照之、寺島しのぶ、名取裕子

2004年 日本映画 1時間40分


東京に住む水沢レン(名取裕子)の家で、ラブラドール・レトリーバーの子犬が5匹生まれた。レンは、この中から一匹でも、父犬と同じような盲導犬にしたいと思っている。本来盲導犬になる犬は、両親とも盲導犬でなければ難しいと言われている。盲導犬訓練士の多和田悟(椎名桔平)に何度も電話をかけるのだが、「盲導犬は血統ですよ、血統!」と断られ続けていた。しかし、多和田は、度重なるレンの願いを断りきれず、一匹だけということで承諾する。

大喜びのレンだが、いざとなるとその一匹を選びきれない。  「呼んですぐ駆け寄るような犬はだめです。一呼吸おいてからおもむろにやってきて、『なんですか?』というように飼い主を見つめる犬の方がいいんです」   多和田のアドバイスに従い、腹にブチ模様のある一匹が選ばれた。

レンに見送られて飛行機で関西にやってきた子犬は、多和田の車に乗せられ、京都に住むパピーウォーカーの仁井夫妻(香川照之、寺島しのぶ)の家へと向かう。パピーウォーカーは盲導犬を1歳になるまで育てる役目で、いわば里親のようなものだ。


   「名前は、なんて言うの?」
   「クイールです。ほら、腹に羽根のようなブチがあるでしょう」
   クイールは“鳥の羽根”という意味だ。多和田は、さらにつけ加えた。
   「いいですか、何をしても絶対に叱らないでくださいね」
   人間に対する不信感を持たないようにするためだ。

いたずら大好きのクイールは、仁井夫妻からのたくさんの愛を注がれて過ごし、やがて盲導犬訓練所へ行く日がやってきた。

多くの犬と一緒に、訓練がはじまった。他の犬が、訓練士の投げたボールに向かって、あっちへ走り、こっちへ走りしているのに、クイールは全く目を向けない。路上での歩行訓練では、歩道から車道へ出る段差や、曲がり角で歩みを止めるよう指示されるが、なかなか覚えることができない。優秀な盲導犬を育ててきた多和田だが、クイールには手を焼き、あきらめかけたときだった。クイールは多和田から「ウェイト」と言われ、そのままの姿勢でいた。待たせていたことを忘れていた多和田は、命令に従ってじっと待ち続けているクイールの姿を見て感激した。それは、盲導犬としての大切な能力だった。

やがて、クイールは渡辺(小林薫)というパートナーと出会う。渡辺は、盲導犬より白杖を信頼しているような人だったが、多和田から、強引に盲導犬と歩くことをすすめられたのだ。渡辺とクイールとの一か月の合宿がはじまった。クイールは忠実に使命を果たしていくが、渡辺はクイールのリードに身をまかせず、自分で決めて歩こうとする。危険な歩き方をして、多和田に叱られる。しかしある夜、自発的に訓練しようと夜の道に出た渡辺は、クイールの導きで自動販売機のビールを買うことができたことから、クイールを信頼し大切に思うようになる。

合宿を終え、渡辺はクイールを連れて家に帰る。家では、犬の嫌いな妻と2人の子どもたちが、犬小屋を作って待っていた。渡辺は、クイールと歩きながら、毎日が楽しくなっていた。障害者仲間に、うれしそうにクイールを自慢する渡辺だったが、ある日、渡辺が倒れる。渡辺の入院が長くなり、クイールは訓練所に戻ることになる。クイールは、渡辺が元気になって、迎えに来てくれる日を待ち続けた。

 

クイールは渡辺をやさしく見つめ、黙って彼の横を歩き続けます。また、多和田の小学生の息子とクイールとのかかわりでは、犬が子どもにとって対等の遊び仲間であることが、暖かく示されています。

人と盲導犬との関わりを描いてはいますが、盲導犬への理解が深まるだけでなく、人が他者と生きていくために忘れてはいけない、大切な視点を、盲導犬をとおして教えてくれるように思いました。クイールは、パートナーの渡辺だけではなく、渡辺とかかわっている家族や障害者の仲間をも、やさしく見つめています。自分に課せられた使命を、淡々と果たしていきながら、大切な人をしっかりと見つめ、その人が生きる世界をも包み込むまなざし。「クイール」は、その崔監督の笑顔のように、とっても暖かい映画です。

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