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 ハナのアフガンノート

2004年6月

Joy of Madness

ハナのアフガンノート

  • 監督・撮影:ハナ・マフマルバフ
  •   
  • 音楽:モハマド・レザ・ダルヴィシ
  •   
  • 出演:アゲレ・レザイ、アゲレ・ファラマンド、ビビゴル・アセフ、
        シマ・アセフ

2003年 イラン映画 73分

  • 第4回東京フィルメックス審査員特別賞受賞
  • 第60回ベネチア映画祭公式出品

映画「カンダハール」の監督として、日本でも有名になったイランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督には、2人の娘がいます。サミラとハナです。姉のサミラは、17歳のときの作品「りんご」をカンヌ国際映画祭に公式出品し、史上最年少の監督として世界の注目を浴びました。その姉の記録を塗り替えたのが、妹のハナです。

「ハナのアフガンノート」は、最初、サミラが監督した映画「午後の五時」のメイキングとして、当時14歳だったハナが撮影しました。しかし、内容がとても興味深いということで、2003年のベネチア映画祭に公式出品され、サミラが持っていた史上最年少の記録を書き換えることになったのです。

ハナは、映画に出演する人を探すために奔走する若い女性監督・サミラの姿を追っていくことによって、映画出演に対するアフガニスタンのごく普通の人々の反応、生活、価値観を写し出していきました。

物語

幼稚園に通うヴィトス(テオ・ゲオルギュー)は、みんなとちょっと違っていた。ホームパーティーでショパ2002年9月、アフガニスタンの首都カブール。22歳のイラクの映画監督サミラは、「アフガン女性たちの痛み」をテーマにした映画を制作しようと、出演してくれる人を探して、アフガニスタンの街を歩いている。映画には、俳優ではなく、実際にアフガニスタンで生きている人に出演してもらいたいと思っているからだ。

サミラは、通りを歩く青いブルカを来た若い女性たちを見かける。彼女たちは、タリバン政権崩壊後、英語の学校に通うようになったのだ。「今までブルカが強制されていて、女性は外出できなかった。でも女性が大統領だったら、こんな状況は改善できると思わない? 大統領になりたい人は?」 一人が手をあげた。しかし、反論が出た。「大統領は、一番優秀な人がなるべきだ。男と女を比べたら、男の方が優秀に決まっているから、男がこの役を果たすべきだ。女は一番になれない。」彼女は、さらにすごいけんまくで、周囲の女性たちに呼びかける。「この人たちに、たぶらかされていはいけない!」と。

サミラは、主人公の父親役を探す。彼の役は、馬車をあやつる御者だ。白い豊かなヒゲのおじいさんがいた。「馬は、あやつれる?」「神に誓うよ、馬は私に従う」しかし、おじいさんは馬に乗ったことがなかった。そこでサミラは、馬をひいている他の男性に、おじいさんに馬のあやつり方を教えてくれないかと尋ねる。

ハナのアフガンノート

サミラは、車の中におじいさんをつれていき、セリフを言ってもらったり、ターバンを取ってもらったりして、出演してくれるか打診しはじめる。馬の男性に、おじいさんに馬あやつり方をきちんと教えてくれるようにと約束する。

数日後。おじいさんは、まだ上手に馬をあやつることができないでいた。おじいさんはさらに、「私は聖職者だから、映画には出られない」と言いだす。「うそつき! 約束したじゃない!」とサミラは怒りだす。「コーランを読める人を選んだのよ。映画出演はプラスになる」と説得するが、老人も「映画にでたら、みなの笑いものになる。映画出演はダメだ。こんなつもりではなかった!」と言い返し、ついには、「映画は狂気だ」と言って去っていく。

翌週から撮影しようと思っていたサミラの計画は、崩れた。サミラは「もう結構!」と怒鳴る。

サミラは、主人公役を探しに行った学校で、アゲレという女性に出会う。2ヶ月間、撮影のために家をあけることができるか、映画に出ることによって、人生のプラスになるから……と、いろいろと語り、映画に出演してくれるように頼む。しかし、女性はサミラの目を見ながら黙っているだけで、なかなか応えようとしない。しまいには婚約者が来たからと、何の返事もないまま帰ってしまう。

サミラは思う。「なぜ、そんなに恐れるのか」と。あきらめきれないサミラは彼女の家を探しにでかけるが、そこで別のアゲレと出会う。彼女には息子が3人おり、夫は行方不明だった。アゲレは、タリバン政府について自分の思いを語る。サミラは、次第に彼女を気に入っていき「映画に出てくれる?」と頼む。しかしアゲレは、朝から晩までという撮影時間が気になるようだ。アゲレの母親が心配そうに見守っている。「午後の五時」の助監督でもあるサミラの叔母も、「何かを得るためには、何かを失うものだ。そして、得るものは失うものより大きい」と説得する。

数日後、アゲレから手紙が届いた。いろいろと考えたけれど断るというのだ。撮影は一ヶ月も遅れている。サミラは、もう待ちきれないとアゲレをあきらめる。

サミラは、主人公の姉の子となる赤ちゃんを探しをはじめる。道にこぼれたミルクを赤ちゃんに飲ませようとしている男性アセフを見つける。翌日、サミラは、アセフを探すが居場所がわからない。ようやく見つけだすが、彼は、映画撮影によって赤ん坊が殺されるのではないかと恐れていた。

 

映画出演の契約書にサインするまでには、サミラの忍耐のいる交渉が必要でした。出演を打診された人はどの人も、お金になる映画出演に魅力を感じながらも、いろいろな恐れを感じていました。その恐れをとおして、宗教、貧困、女性の地位など、タリバンの後も続くアフガニスタンのさまざまな問題が見えてきます。女性の大統領に反対する女性や2人目のアゲレのように、ブルカの下に隠されてきた女性たちが、しっかりした意見を持っていることには驚きました。

サミラとスタッフの人々の映画撮影への熱意とともに、アフガニスタンの人々の思いを知ることができる貴重なフィルムです。

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