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 父、帰る

2004年9月

VOZVRASHCHENIE

父、帰る

  • 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
  •   
  • 脚本:ウラジーミル・モイセエンコ、アレクサンドル・ノヴォトツキー
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  • 音楽:アンドレイ・デルガチョフ
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  • 出演:ウラジーミル・ガーリン、イワン・ドブロヌラヴォフ、
       コンスタンチン・ラヴロネンコ、ナタリヤ・ヴドヴィナ

2003年 ロシア映画 1時間51分

  • 2003年第60回ヴェネチア国際映画祭グランプリ金獅子賞、新人監督賞受賞
  • 2003年コットブス国際映画祭最優秀監督賞受賞
  • 2003年ロシア映画批評家協会賞 最優秀作品賞、最優秀新人監督賞、最優秀撮影賞受賞
  • 2004年ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞ノミネート
  • 他、受賞多数

ロシアから、衝撃的な作品がやって来ました。原題は「帰還(VOZVRASHCHENIE)です。監督は1964年生まれの40歳という若さで、長編映画の第1作目となる本作品で、ヴェネチア国際映画祭の新人監督賞を受賞しました。最優秀男優賞、作品賞、撮影賞、脚本賞などを、たくさんの映画祭で受賞し、そのすべてを書くことができなかったほどです。受賞数を見ても、この映画のすごさがわかります。

12年間不在で、ある日突然家族のもとへ戻ってきた父親と、2人の兄弟の反応をとおして、父とは何か、親とは何かを考えさせられます。タイトル「父、帰る」もいろいろな意味に取ることができますが、作品自体も、いろいろに深めることができます。説明されていない謎の部分があったり、キリスト教的な暗示が示されていたり、登場人物からロシアの姿を見ることもできたり、また、2人の息子をはじめ、父や母など、登場人物が心の中で何を感じているのか……と、見る者の心を動かします。また、よく雨が降ります。霧に覆われた湖、鉛色の空。地平線や水平線と空の構図。内容的にも視覚的にも、すばらしい作品です。

物語

イワン(イワン・ドブロヌラヴォフ)は、兄のアンドレイ(ウラジーミル・ガーリン)と母(ナタリヤ・ヴドヴィナ)、そして祖母と穏やかに暮らしていた。父は、イワンが小さいころ家を出たきり、どこにいるのかわからない。

夏休みになり、イワンはアンドレイや友だちと一緒に、海に行った。アンドレイたちは、海辺にある塔から飛び降りて、肝試しをしているが、イワンは恐ろしくて飛び込むことができなかった。夕方になり、イワンが降りてくるのを待ちきれないアンドレイ兄たちは家に帰ったが、イワンは一人取り残され、塔から降りることができずにいた。心配した母が、凍えているイワンを迎えにやってきて、イワンはやっと家に戻った。それからは、「男のクズ」と、アンドレイや友だちからばかにされた。

アンドレイと言い争いをしながら家に帰ると、母も祖母もいつもと様子が違っていた。父(コンスタンチン・ラヴロネンコ)が帰ってきたというのだ。イワンとアンドレイは、ベッドで眠っている父の姿を見てとまどった。

夕食時、起きてきた父は、「久しぶり」とだけ声をかけ、ずっと家にいたかのように、家長としてふるまった。「いったいこの態度は何なのか」。父の顔さえ知らないイワンは、突然帰ってきた父を、受け入れることができなかった。そのうえ、明日から、兄弟をつれて旅に出るという。イワンとアンドレイは、不安な気持ちを抱え、興奮して、その夜は眠れなかった。

翌朝、車のトランクに釣り道具とテントを積み込み、3人は出発した。イワンは日記を持ち、アンドレイと交代で書くことにした。母は、不安そうに見送った。目的地は、北にある湖に浮かぶ無人島で、車で3日かかるという。何かにつけて命令的な父の態度にイワンは抵抗するが、兄は父に従っていく。土砂降りの雨の中で車が動かなくなった。父はスコップと切ってきた林の枝で、ぬかるみから脱出する。レストランで食事をしたとき、アンドレイが支払いをするために父から預かった財布を、町のチンピラに盗まれた。父は、責任を持って自分で取り戻すようアンドレイに迫る。

父、帰る


父、帰る

今まで、何をしていたのか。どこから帰ってきたのか。なぜ出てゆき、なぜ今帰ってきたのか。言葉で説明せず、力で封じ込めようとする父への不満が、イワンの中で高まっていく。湖で車を降り、船で無人島に渡った。アンドレイを殴る父の態度に、イワンの不満は抑えきれなくなり、とうとう爆発してしまった。今までの思いを吐き出し、岸辺の高い塔の上によじのぼってしまう。イワンの言葉から、息子に誤解されていると知った父は、説明しようとイワンの後をおって塔に上って行く。イワンが塔の上で怒りと恐怖に脅えているところに父がたどりつく。イワンを助けようと差し延べた父の手に、我が子への父の愛を感じたそのとき、思いもかけないことが起きる。

父、帰る


 

「父、帰る」は、不在だった父が、自分の元へ帰ってきた……ともとれますし、父親の使命を果たした父が、帰っていく……ともとれます。これは、子どもが大人へと成長してく過程で、父親を受け入れ、父親を越えていくドラマとも言えるのではないかと思いました。チラシにあるイワンの目からもわかるように、13歳のイワン・ドブロヌラヴォフの「父への恨み」の表情が見事です。私自身の、中学生のころにあった父親への反抗期を思い出しました。とにかく、内容の深い作品です。ぜひ、ご覧ください。

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