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 二人日和

2005年11月

二人日和

  • 監督:野村惠一
  • 原題:Turn over 天使は自転車に乗って
  • 音楽:門奈紀生
  • 主演:藤村志保、栗塚旭、賀集利樹、山内明日
  • 配給:パンドラ

2005年 日本映画 111分

  • 文部科学省選定(青年向、成人向)
  • フランクフルト「第5回ニッポン・コネクション」グランプリ受賞

桜、和服、神社、京都……と、まさに“日本!”という感じのしっとりとした映画です。老夫婦の姿から、夫婦とは何かを問いかけられます。

物語

黒由玄(栗塚旭)の一日は、京都御所の近くにある梨木神社で、水を汲むことからはじまる。彼は、御所や神社の神官の装束のすべてを作る神祇装束司(じんぎしょうぞくし)で、無口で頑固だがいい仕事をする職人だ。神社から持ち帰った水で入れた珈琲を、妻の千恵(藤村志保)と一緒に飲むのが至福のひとときだった。 千恵は、ALS(筋委縮症側索硬化症)という難病に冒されていた。筋肉を動かす神経が冒され、次第に体の機能を失い、ついには死がやってくる。千恵は、ハシがうまくつかえなくなっていた。

ある朝、いつものように水を汲んで神社を出た黒由は、小学生に囲まれている青年(賀集利樹)を見る。彼は、小学生たちにマジックの腕前を披露していた。黒由は、千恵の指の訓練のために、青年を家に招く。青年は俊介といい、大学院で遺伝子の研究をしていた。俊介は黒由の家をたびたび訪れるようになっていた。いろいろなマジックを披露し、千恵に教えていた。病気で暗くなっていた千恵だが、青年の見事なマジックに歓声をあげ、表情も明るくなっていった。若い俊介の訪問は、子どものいない黒由夫婦にとって楽しみとなっていた。しかし、とうとう千恵が倒れ入院する日が訪れる。

俊介は、大学院の教授から、アメリカへの留学を勧められていた。俊介は恋人の恵(山内明日)ことを考え、アメリカへ行くことを悩んでいた。恵は、そんなに長い間、俊介を待っていることができるか、自信がないと言う。

入院していた千恵のもとに、俊介からマジックショーの招待状が届く。外出許可をもらい、夫が押す車イスで出かけた千恵は、マジックショーの後、桜が美しく咲く鴨川の岸辺を俊介に車イスを押してもらう。恵と楽しそうに話しながら歩いている黒由を見て、千恵はおだやかな気持ちになっていく。黒由夫婦にとっても、また俊介と恵にとっても、楽しい一日だった。

千恵の病状が進んでいく中で、黒由はある決心をしていた。取りかかっている大きな仕事が完成したら、店を閉じ、千恵の看病に徹しようというのだ。家の中を整理しているとき、黒由は千恵の鏡台の中から、ふくさに入った若いころの日記を見つける。そこには、千恵の黒由への思いがつづられていた。結婚する前、二人がデートで通ったダンスホール、黒由が千恵に送った手作りの内裏雛、そして流産。黒由は、日記をとおして妻と会話していく。

病室を訪れた黒由は、「店をたたみ、今日から、ここに寝泊まりする」と千恵に伝える。黒由は、まっすぐ千恵の顔を見ては語れない。じっと黒由を見つめていた千恵は、しばらくの沈黙の後、「ここから先は、わたし一人で行きます」と言う。黒由は答える。「ここまで一緒に生きてきたやないか。」夫の決意を知った千恵は、うれしそうに、そっと夫の手を握るのだった。

 

千恵の葬儀の後、アメリカへ行くことを決心した俊介の手に、恵が指をのばしていきます。強く握りあう二人の手に、黒由と千恵の姿が重なります。黒由は、千恵が俊介に心を開いていくのを見ながら、長い生活の中で知らずに固まっていった心を溶いていきました。また、恵の中に、若き日の千恵を見ていたのかもしれません。一方、俊介と恵は、黒由と千恵に接しながら、互いに築きあっていく夫婦愛のすばらしさを見たのかもしれません。

エンドクレジットで流れるクミコさんの歌が、哀愁を帯びていて、心を落ち着かせてくれます。俊介の通う大学院の教授役として、きたやまおさむが友情出演しています。中年のいい味を出しています。オールロケで撮影された、京都の町家の様子や鴨川の桜、葵祭も、お楽しみください。

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