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物語

長い間連れ添った夫婦が、晩年静かに暮らしていた。しかし、その兆候が現れたのは、妻のヨシ子（雪村いづみ）に散髪をしてもらったときだった。散髪が終わるとヨシ子は「お茶を入れてきますね」と言って台所へ行った。しかしお茶は、すでに縁側に置かれていたのだった。頭に触ってみると、片方の髪にハサミが入っていなかった。「あれ？」とは思ったが、気にもとめないでいた。しかし、それからおかしなことが、どんどん増えていった。そして妻自身も言った「何がなんだか、わたしにも分からないの。怖いわ……。」病院で認知症と診断された。

「とにかく、あなたのがんばり次第です」と医師に言われ、子どものいない高山治は、自分が妻の世話をすることを生活の中心に置く選択をする。近くに住むヨシ子の姉の息子（阿藤　快）が、二人を心配し、なにかと声をかけてくれる。

執筆はヨシ子が寝てしまった夜にすることとし、日中は、ヨシ子の身の回りから食事の世話まで、慣れない手つきで淡々とこなしていった。しかし、やがて高山は右あごのあたりに不快感を覚える。病院へ行くことを先延ばしにしていたが、ある夜、激しい痛みに襲われ、もうダメだと思い、診察を受ける。喉頭ガンだった。しかし、目が離せない妻が待っている。悩んだ治は、手術を受けることを決意し、ヨシ子を特別養護老人ホームへ入れることにする。

なんとも切なくなってしまう映画です。しかし、一方で、穏やかな思いが広がっていることも事実です。文筆家とその妻のつつましい生活。妻への献身的な介護。二人だけの生活をしてきた彼らだが、いつまでも心の底のそこでは通じ合っていることを感じさせる温かい夫婦愛の物語です。

おしゃれな雪村いづみさんが、髪の毛を振り乱して壊れていく認知症の妻を熱演しています。また、上方落語の師匠・桂春團治氏が、妻を大切にする夫を素朴に演じています。このちょっと似合わない組み合わせのカップルが、とてもいい雰囲気を出しているのも一つのみどころです。