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 長い散歩

2006年12月

長い散歩

  • 監督:奥田瑛二
  • 脚本:桃山さくら、山室有紀子
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  • 音楽:稲本響
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  • 出演:緒方拳、高岡早紀、杉浦花茉、松田翔太、木内みどり
  •   
  • 配給:キネティック

2006年 日本映画 136分

  • 2006年モントリオール国際映画祭グランプリ、国際批評家連盟賞、
            エキュメニック賞受賞

現代のいろいろな問題を浮き上がらせている映画です。

物語

厳しい校長(緒方拳)がいた。安田松太郎と言った。生徒だけでなく、娘にも妻(木内みどり)にも厳しく接した。夫と気持ちが通じないことを悩んだ妻は酒におぼれる日々を送るようになり、やがてアルコール依存症になった。そして、孤独な気持ちを夫に理解してもれえないまま妻は死んでいった。そんな父を、娘はゆるさなかった。

定年退職となった松太郎は、娘に家をゆずり、荷物を整理して、違う町の小さなアパートに引っ越した。松太郎は妻にわびる気持ちを持つようになっていた。家族の仲がよかったころ、3人で撮影した写真を大切に持ち歩き、罪の償いとして写真の場所に行ってみたいと思うようになっていた。山の上のようなところで撮影したその写真には、「おーい君、おーい天使、おーい青い空、松太郎」と書いてあった。

松太郎のアパートには、生活に必要な最低限のものしかなかった。松太郎が買い物から戻ると、天使の羽をつけた女の子(杉浦花茉)がアパートの階段の上がり口に座っていた。歌を口ずさんでいる女の子は、裸足で汚い格好をしていた。玄関のドアが開き派手な格好をした母親(高岡早紀)が出てきた。何か怒鳴り、女の子に100円玉を投げつけると、階段を下りていった。水商売をしているらしい。

夜になると、女の子の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。静かな一日を終え、布団の中に入った松太郎は、壁を伝ってくる女の子の鳴き声にたまらなくなり、布団をかぶり耳をふさいだ。松太郎は、母親からの虐待を受けている女の子を見るにつけ、自分が娘に対しておこなったことを思い出し、苦しむようになっていた。

女の子には、秘密の場所があった。女の子は、そこで盗んできた絵本を読み、安心して眠った。女の子の跡をつけた松太郎は、天使の羽をつけたまま眠っている女の子を見て、いとおしさを感じていった。

長い散歩
(C)2006「長い散歩」製作委員会

小鳥を助けたことから、二人は親しくなった。ある日、同居する若い男といるために女の子が邪魔となった母親は、女の子の首に手を置き押さえつけようとした。「キ~~~~!」と叫びを上げた女の子は、叫び続けながら外へ走り出した。どこまでもどこまでも走り続けた。

歩くことによって体力をつけていった松太郎は決心した。秘密の場所で女の子を見つけた松太郎は言った。「おじいちゃんと一緒に行くか?」女の子を虐待の世界から救い出そうと、松太郎は女の子の手をひき、あり金を持って、あの写真の山を目指して旅に出た。女の子は松太郎と歩きながら、次第に心を開いていった。女の子は、松太郎に名を教えた。「幸(サチ)」という名だった。

サチがいなくなった2日後、母親が警察に捜査願いを出した。隣人の男・松太郎が誘拐犯とされて捜査が始まった。

サチと松太郎の旅に、ワタルという青年が加わった。ワタルと仲良しになったサチは、ワタルに笑顔を見せた。しかし、ある朝、サチと松太郎の目の前で……。

 

自分も望まれなかった子で、母親から愛されることのなかったサチの母親は、「自分も母親と同じことをしているにすぎない」と言っています。愛を知らず、人と落ち着いた人間関係が結べない若い母親。心の深みに闇を抱えている青年、家族と断絶して仕事に熱中してきた初老の男性に残っているものは、いったい何なのでしょう。孤独な現代人の心の闇と再生を言葉数少なく表現した、奥田瑛二監督の作品です。

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