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 ツォツィ

2007年4月

TSOTSI

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ツォツィ

  • 監督・脚本:ギャヴィン・フッド
  • 原作:アソル・フガード
  • 出演:プレスリー・チュエニヤハエ、テリー・ペート、モツスィ・マッハーノ
  • 配給:日活、インターフィルム

2006年 スイス映画 121分

  • 2006年アカデミー賞外国語映画賞受賞
  • 2005年イギリス・エジンバラ国際映画祭最優秀作品賞、観客賞受賞
  • 2005年カナダ・トロント国際映画祭 観客賞受賞
  • 2005年南アフリカ・シテンギ映画祭 批評家賞受賞
  • 2006年アメリカ・ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
  • その他、多数の映画賞で受賞

物語

長い間、黒人差別で苦しんだ南アフリカ共和国。1960年にアパルトヘイトが廃止され、マンデラ大統領とノーベル平和賞を受けたツツ大司教の呼びかけによって、黒人と白人が、ともに生きようとしています。しかし、エイズがはびこり、黒人の間の貧富の差が大きくなっています。ヨハネスブルグには、高い教育を受けている人々が大邸宅に住む街がある一方、旧黒人居住区ソウェットには貧しいスラム街が広がっています。

不良少年のグループのリーダー、ツォツィ(プレスリー・チュエニヤハエ)。ツォツィとは不良、チンピラの意味。だれも彼の本当の名前は知りません。けだるい朝、一日がはじまると、今日はだれを餌食にするのかと仲間4人がつれだって駅に向かいます。駅の構内を行き交うたくさんの人。ツォツィの目の動きが止まりました。3人は、ツォツィの鋭い目線の先にいる太った黒人を取り囲みます。満員電車の中での彼らの殺人と強盗の犯行に、乗客はだれも気づきません。

ツォツィ

「殺すことはなかったろう。“品格”という言葉を知っているか」とツォツィをなじる仲間のボストン(モツスィ・マッハーノ)に怒りを燃え上がらせたツォツィは、顔がゆがむほど彼を殴り続けます。ツォツィの手は、真っ赤に染まっていました。

自分のやってしまったことから逃げるように、ツォツィは走ります。スラム街を抜けて走って走って。気がつくと、高級住宅街のある豪邸の前に立っていました。高級車で帰ってきた黒人女性を銃で脅したツォツィは、その高級車を奪います。車は高額で売れるのでした。しかし、運転ができないツォツィは車をぶつけてしまい、仕方なく乗り捨てようとしたとき、後部座席から赤ん坊の泣き声が聞こえます。一旦は見捨てて車から離れたツォツィですが、赤ん坊を詰め込んだ紙袋を手にスラム街に向かって歩き出します。

ツォツィ

新聞紙をおむつにしたり、コンデンスミルクの缶をミルク代わりに飲ませたり、赤ん坊の手を焼きながらもなんとか世話をします。ツォツィは、毎日井戸に水汲みに来ている若い母親を銃で脅し、母乳を与えてもらうことに成功します。彼女の名はミリアム(テリー・ペート)。彼女は夫を亡くし、裁縫をしたり、拾ったガラスのかけらで作った飾り物を売って生計を立てていた。

ツォツィにおびえながらも、ミリアムは赤ん坊にお乳を飲ませはじめます。うれしそうに乳を飲む赤ん坊を見つめているツォツィの目から、非道さが消えました。「かわいい子、たっぷりとお飲み」乳を含ませながら、絶えず赤ん坊に声をかけるミリアム。そのやさしい姿をまぶしそうに見ながら、ツォツィは自分の母親を思い出しました。

ツォツィ

エイズにかかった母の手を握ることも、近づくことも固く禁止された少年のころ、酒びたりの父親に反抗して殴られそうになったツォツィは、家を出ました。走って走って走って……、たどり着いたのが、今住んでいるスラム街でした。母への思い、父への怒り、社会への不満を暴力で表現するしかなかったツォツィの心に変化が起こりはじめていた。

 

アフリカ映画として初めてアカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品ですが、日本での公開は「映倫R15指定(中学生以下は鑑賞禁止)」となりました。「10代にこそ見てほしい映画なのに……」と、関係者は残念に思っています。家庭に愛がないことから生きていく道を見失ってしまう若者の姿は、アフリカも日本も同じです。厳しい生活の中でも、精一杯子どもを育てている若い母親・ミリアムの姿は、救いであり光です。「わたしにその子を預けて……」と、自分の子と一緒に育てようと手を差し出すミリアムは、すべての子どもを心配する聖母マリアのようです。どうしようもない悪から、自分の中に秘めている清らかさへと変わっていくツォツィの姿から、人間に対する神の希望を見たような気がしました。

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