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 1978年、冬。

2008年6月

西幹道 The Western Trunk Line

1978年、冬。

  • 監督:リー・チーシアン(李継賢)
  • 脚本:リー・ウェイ(李薇)
  • 出演:チャン・トンファン(張登峰)、リー・チエ(李傑)、
       シェン・チアニー(沈佳妃)、
       チャオ・ハイイエン(趙海燕)、
       ヤン・シンピン(楊新平)
  • 配給:ワコー、グアパ・グアポ

2007年 日本・中国映画 101分

  • 2007年東京国際映画祭コンペティション部門審査員特別賞受賞
  • ロッテルダム国際映画祭正式出品
  • エジンバラ国際映画祭正式出品
  • マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭正式出品
  • 光州国際映画祭正式出品
  • フリブール国際映画祭正式出品
  • シンガポール国際映画祭正式出品

1978年。それは毛沢東の死によって、10年間続いた文化大革の時代が終わり、鄧小平が「改革開放」政策によって近代化と対外開放を打ち出した年であり、新しい時代のはじまりとして現代中国の大切な起点となった年です。急には消え去らない古いものの中に、新しいものが進出しはじめ、いったいこれからどうなるのだろうと人々は変化にとまどい、心はさまよっていました。本作品は、そんな時代の、中国北部の小さな町・西幹道に住む、年の離れた兄弟と北京からやってきた少女を描いた作品です。

文化大革命中に少年だったリー・チーシアン監督は、中国第6世代の監督の登場と言われています。リー監督は、学生のころから10年にわたってこの作品を暖めてきました。脚本を書いたリー・ウェイは当時の学友で、今は監督の妻となっている彼女と二人で、時間をかけて脚本を練ってきたと言っています。

物語

絵を描くことが好きな11歳のファントウ(チャン・トンファン)は、無口な軍医の父(ヤン・シンピン)と、厳しい躾で何かと口うるさい母(チャオ・ハイイエン)、そして、18歳の兄スーピン(リー・チエ)の4人暮らしで、西幹道に住んでいる。毎朝、兄とともに通勤列車に乗って学校に通っている。同じ駅で降りる兄は、工場に勤めているが、仕事をさぼっては廃屋となった建物に隠れ、ラジオを修理しては海外の電波を受信し、雑音の中から言葉のわからない音楽を聴いていた。

ある日、スーピンの勤務態度が両親の知られるところとなり、ファントウは、兄がきちんと工場に行くのを見定めるよう母から言いつけられる。

通勤列車に乗る兄と弟。二人の間に、微妙な距離が生ずる。ファントウは、工場に入っていくスーピンの姿を見てから、工場の先にある学校へと向かう。

ある日、一家は「新年迎戦友文芸出演」という公演を観に出かける。その中で踊る少女シュエンの存在に兄弟はひきつけられる。北京から来たシュエン(シェン・チアニー)に、スーピンはほのかな恋心を抱く。

学校が終わるとファントウは原っぱに行き、ドラム缶を机にして大好きな絵を描いていた。そこへシュエンが通りかかり、ファントウの絵を誉めてくれた。「展覧会が開ける」という言葉にファントウはうれしくなってしまう。ファントウは、シュエンからもらった画用紙を大切にベッドの下に隠す。それを知ったスーピンは、布団の上に水をこぼし、それをシュエンからおねしょと思われたファントウは恥ずかしい思いをする。

シュエンが父親に仕送りをしていると知ったスーピンは、お金を集めるために盗みをしたり、父親へシュエンの写真を送るために、踊りの衣装を作って撮影したりして、彼女への思いを強めていく。

しかし、シュエンの父は亡くなり、その寂しさからシュエンとスーピンの関係は深まり、町の人々の知るところとなる。兄をきちんと監視していなかったと母親から叱られ、また「不良の弟!」とからかわれて裸にされたファントウは、崖から飛び降りてしまう。

何も語らないファントウ。自分のために辛い思いをしている弟を見て、スーピンは、家を出て軍隊に入る決心をする。

入隊の日、ホームから列車が動き出すと、兄に厳しかった母が涙を流した。ファントウは黙って兄を見ていた。走り出した列車の窓から、スーピンはビルの影に立っているシュエンを見つけた。

 

ファントウと兄スーピンが住む西幹道を走る通勤列車は、下層労働者が工場へ行くときに使う専用列車で、無料で乗ることができました。通勤だけでなく街の人々の生活手段として利用されていました。しかし客車ではなく、貨物車を利用したものでした。

出演者は、ファントウの母親だけが俳優で、ファントウはじめ兄、父など、すべて映画初出演の素人ばかりです。彼らは、しっかりと与えられた人物像を演じ、作品に味を与えています。

会話はほとんどなく、ナレーターも入りません。中国の凍てつく荒涼とした風景。大人たち、そして兄たちの世代をじっと見ながら、主人公のファントウは何を思い、感じていたのでしょう。

1978年の冬の出来事が、監督の分身でもあるファントウの人生に影響を与えたように、映画「1978、冬。」は、愛おしい人々が出てきて、見る者の心の原風景に触れるような作品です。

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