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 沈黙を破る

2009年5月

長編ドキュメンタリー

沈黙を破る

  • 監督・撮影・編集:土井敏邦
  • 配給:シグロ

2009年 日本映画 130分

 

2002年、自爆テロがあった。現場に居合わせた人々の不安な顔。警察がやってきた。一人がコンクリートの壁に手をのばした。カメラが寄る。警官は、壁に飛び散った被害者の肉片を集めた。

元イスラエル兵士の証言。
「3年も経つと、感覚がマヒする。パレスチナ人を人間と思わないようにしている。でないと、夜、押し入ることはできない。」

ヨルダン川西岸地区にあるバラータは、イスラエル軍に包囲され激しい攻撃を受けた。武装ヘリコプターの攻撃で、3人の若者が亡くなった。泣きわめく家族たち。恐怖に震え、けいれんを起こす人。次々と負傷者が担ぎ込まれて混乱する病院。

苦しい現実が映し出されていく。でも、これはここでは毎日のことなのだ。攻撃する側の兵士は言う。「コンピュータゲームのような感覚に陥る。どこにいようと、指一本で思いのままに攻撃できる。その快感が中毒になる。何かがおかしいと思う。鏡を見たら、自分の頭に角が生えている。自分のしてきたことについて考え、沈んでしまう。」

銃撃を受けた恐怖から、奇声を発するようになった幼児。落ち着きがなく、かみついたり大声を発する。

町の人々の中で、アメリカ人のボランティアが献身的に働いている。攻撃が米軍によるもだと知り、彼女は苦しくなり、人々の間にいたたまれなくなる。町の人々は悟る。「俺たちが苦しんでいるように、彼女も苦しんでいるのだ。」

あるときは、何も抵抗していない街の青年たちを並べて射殺し、その後、穴に埋めた。自分たちのしたことを隠すためである。

兵士としての、任地での日常の心情と訓練の意味を語る。「どのような心で、兵士としての日々を過ごしているの?」「感情をマヒさせて、機械になるんだ」。

証言者である彼らは、同じころ、テルアビブで「沈黙を破る---戦闘兵士がヘブロンを語る」という写真展を開催していた元イスラエル兵士たちである。「裏切り者」と言われながらも、兵士の現状を知ってほしいと立ち上がった20代の兵士たちは、占領地での写真や60人の兵士たちの証言ビデオをとおして、虐待、略奪、住民への殺戮行為を告白し、写真展は大きな反響を呼んだ。

彼らは、さらに数百人の証言ビデオを集め、講演会やwebサイトをとおして、占領の実態を世界に訴え続けている。

 

フリージャーナリストの土井敏邦さんは、20年間取材してきたパレスチナ・イスラエル問題の映像と、写真展を行った元イスラエル兵士たちの証言をまとめ、長編ドキュメンタリーを完成させました。パレスチナで行われている「占領・侵略」の現実と、その意味を問いかけています。

元イスラエル兵士たちの証言は、米軍のイラク帰還兵たちの証言と重なり、さらには、第2次世界大戦でアジアの人々に行った日本兵の姿とも重なっていきます。

戦争は、兵士たちをも破壊していきます。彼らは、戦地から離れても、一生背負い続けなければなりません。そんな大きな傷を、いったいだれがいやすことができるでしょうか? そんな大きな傷を追わせた責任を、いったいだれがとれるのでしょうか?

   どれだけ頬杖をついたままだったのだろうか……。
     しかし、未来のために生きなければと考えた。

世界中が避けなければならない戦争。「もう、戦争はこりごり! 戦争をしてはだめ! 絶対にしないで!」と叫びたい。兵士たちのために。爆音の中で生まれ育った子どもたちのために。


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