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 アイガー北壁

2010年4月

NORDWAND

抵抗

  • 監督:フィリップ・シュテルツェル
  • 脚本原案:ベネディクト・レースカウ
  • 音楽:クリスティアン・コロノヴィッツ
  • 出演:ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ヴォカレク、
        フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール
  • 配給:ティ・ジョイ

2008年 ドイツ・オーストリア・スイス映画 127分

 

スイスを代表する山、アイガーの北壁は、1,800メートルにもおよぶ厳しくそそりたつ壁です。三大北壁と呼ばれるもっとも困難なルートのひとつで、挑戦者たちの命を飲み込んできました。1936年、アイガー北壁を目指して登り始めた4人の青年たちは、麓の高級ホテルで見つめるジャーナリストや観光客たちの前で、頂上を目指しました。「アイガーの北壁」は、ベルリン・オリンピックを控えたこのときに起きた実話を元にして撮影された山岳映画です。

 

物語

ドイツ軍が力を誇っていた1936年、国威発揚のプロパガンダの戦略として、登頂が難しいアイガー北壁を制覇した者にベルリン・オリンピックで金メダルを与えると、挑戦者を求めた。ベルリン新聞社でアシスタントをしていたルイーゼ(ヨハンナ・ヴォカレク)は、上司のアーラウ(ウルリッヒ・トゥクール)の命令で、幼なじみのトニー(ベンノ・フュルマン)とアンディ(フロリアン・ルーカス)に挑戦させることを説得させるため故郷へ帰ってきた。

アイガー北壁


再会を喜ぶ3人だが、アイガー北壁は、前の年に一流の登山家が命を落としており、落石が多く、天候が急変することで有名だった。きわめて危険な挑戦に対し、トニーは返事を渋っていた。

トニーたちは挑戦しないと上司に伝えたルイーゼは、ナチス党員でオーストリア人の登山家であるヴィリーとエディーを取材するようにと言われ、アイガーへと向かう。

にえきらないトニーに不満を示したアンディは、一人で挑戦するため、部隊の上官に休暇を願い出る。そこへトニーがやってきて、2人は北壁に挑戦することに決める。

アイガー北壁


アイガーの麓には各国からの挑戦者が集まっていた。ドイツ人登山家が参加するというニュースは、ホテルに集まっていた観光客らを喜ばせた。出発の前夜、トニーはルイーゼの部屋を訪れ、これまでどの登山にも持参し大切に持っていた登山日記を、「失いたくない」という言葉とともにルイーゼに手渡す。

翌朝、絶好の時と判断したトニーは、アンディとともに、まだ他のチームが眠っている中を出発する。しかし、彼らの出発に気づいたオーストリア隊のヴィリーとエディーが、すぐ後を追いかけていた。順調に壁を進んでいたトニーとアンディたちの落石が、ヴィリーの額に当たり大けがを負った。「間をあけてこないからだ!!」と叫ぶが、ヴィリーは、トニーたちが苦労して進む道を利用して登ってきた。下山時のためにザイルを残しておこうというトニーに対しアンディは、ヴィリーたちがザイルを利用するのを恐れて片付けてしまう。しかしこれが、彼らの命取りとなった。一日目、4人はすばらしい速度で進みその日を終えた。

翌日、ヴィリーは熱を出し容体が悪化していた。エディーは自分たちは残して登ってくれと言うが、それはヴィリーの死を意味していた。トニーとアンディは登頂を断念し、ヴィリーを助けるためにザイルで下ろしながら下山することを決意する。それは、気の遠くなるような遅遅とした歩みの作業だった。登頂をしないと分かった報道者や観光客たちは、ホテルから去っていった。

アイガー北壁


3日目、天候が変わる。トニーたちを心配し、上司の命令に背いてホテルに残っていたルイーゼは、吹雪の中をアイガーへと向かう。彼らの近くにある坑道口から2人に呼びかけるルイーゼの、右先の壁の先にトニーが見えるのだが、彼らは遠かった。アンディがザイルを片付けてしまったため、横に伝うルートが使えないのだ。彼らは垂直に下りることにするが、そのとき雪崩が彼らを襲った。エディーは頭を打って気を失った。アンディとヴィリーは落とされ、宙づりになっていた。失いそうな意識の中で、アンディはナイフを取り出してザイルを切った。「アンディ、やめろ!!」トニーの絶叫を吹雪が消した。

 

アイガー北壁が映し出されたときから、つらくてドキドキして見ていました。吹雪がピューピュー吹き付けて痛いほど、それでも人間は生きています。手袋を落とし、手や腕が感覚を失って壊死状態になっても、人間は生きています。自分の生命が危ない、なんとか生きたいと思うときでも、人間は他者を生かすために自分犠牲にすることができます。

北壁を制した者に金メダルをあげるという命令を出した政府は、失敗した挑戦者を置き去りにします。暖かいホテルに泊まって、北壁を登る者を優雅に見物していた人々にとって、挑戦者たちの命がけの北壁登山は、見せ物でしかありませんでした。死を間近にしている人がそこにいるのに、彼らは登山者を置き去りにしていきます。

トニーとアンディの2人だけだったら、きっと登頂は成功していたでしょう。しかし2人は、自分たちにとって邪魔者でしかないオーストリアの2人を前にして、成功と賞賛の道よりも人の道を選びました。登頂をやめて下山を決意したときから、報道陣や見物している人々は去っていきました。「このギャップは、いったい何なのだ!」と思いました。

登山の途中で、前年に亡くなった登山者の遺体を発見したとき、4人は心を合わせて「主の祈り」を唱えました。ここから無言のうちに、4人はひとつの心になっていったように思います。

時代に翻弄されて命を落としていった若者がいたことを、映画は伝えています。アイガー北壁への挑戦は、今も続いていますが、人の命を国策に使ったこと、命がけのアイガー北壁登頂を見せ物とし、さらに失敗した挑戦者を見捨ててしまったことを、わたしたちは覚えている必要があるのです。

※画像:(c) 2008 Dor Film-West, MedienKontor Movie, Dor Film, Triluna Film, Bayerischer Rundfunk, ARD/Degeto, Schweizer Fernsehen, SRG SSR idee suisse, Majestic Filmproduktion, Lunaris Film- und Fernsehproduktion All rights reserved

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