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 密約 —外務省機密漏洩事件

2010年4月

密約

  • 監督:千野皓司
  • 原作:澤地久枝
  • 音楽:菅野光亮
  • テーマ作曲:クロード・チアリ
  • 出演:北村和夫、吉行和子、大空眞弓、礎部勉、
       永井智雄、滝田裕介
  • 配給:アニープラネット

1978年 日本映画 100分

 

1971年6月の沖縄返還日米協定のときにあった沖縄密約文書の公開を求めて行われていた裁判で、4月9日、東京地裁は、密約の存在を認めた上で、全文書の開示と原告に対し総額250万円の慰謝料を支払うよう命じました。日本と米国との間で密約文書は存在しないと主張してきた政府に対し、裁判長は、その文書を「第一級の歴史的価値のある重要文書」と認定し、さらに「国民の知る権利をないがしろにする外務省の対応は不誠実だ」とも述べました。この訴訟の原告は、元毎日新聞社の記者である西山太吉氏とノンフィクション作家の澤地久枝さんら25人です。

映画「密約-外務省機密漏洩事件」は、澤地さんが執筆した『密約』をテレビドラマ化したもので、30年を経て今年映画として公開されました。

1971年1月、西山さん(映画では石山太一:北村和夫)は、当時毎日新聞社の記者で、沖縄返還交渉を前にして外務省クラブ詰めのキャップになりました。外務省の女性事務官・蓮見喜久子(映画では筈見絹子:吉行和子)と親しくなり、蓮見さんをとおして沖縄返還に関する重要書類を手に入れます。沖縄返還交渉の中で、日本側は米軍が基地として使用していた土地を、元の所有者たちに返すための補償金を請求していました。その代わり、アメリカが沖縄占領政策上沖縄に注ぎ込んだ核兵器の撤去費用や施設の費用をアメリカ側に支払いますと訴えました。しかし、この日本側の主張を、アメリカ側は受け入れませんでした。参議院選挙を控え、総理大臣に引退の花道を用意したいと考えていた政府は、なんとかこの交渉を成立させたいと思っていました。そこで、政府は請求権を放棄し、表向きはアメリカが支払うという形にしたのです。蓮見さんから極秘文書を入手していた西山記者は、日米間で沖縄返還協定に調印された6月17日の翌日、請求権処理に疑問を呈する記事を新聞で発表しました。

翌年の予算委員会の中で、政府の電信文コピーが資料として取り扱われました。そのような重量資料が外部の手に渡ったのは、内部のだれかがひそかに流出した以外にありません。資料の印欄を見れば、だれが関わったか明白です。蓮見さんは警視庁に出頭します。

この事件の裁判は、新聞記者と国家公務員である女性事務官の情事問題として扱われ、一審では、国家公務員法違反の罪で蓮見さんに有罪が、2審では西山記者にも有罪の判決がくだされました。この裁判を、澤地さんは傍聴し続けてきました。裁判で問われるのは、時の佐藤栄作首相と外務省であったはずなのに、ふたりの問題にすり替えられてしまい、また肝心の「密約」については問われなかったことに対して、澤地さんは「日本の民主主義の悲しい貧困、不毛の精神土壌への怒りを」感じ『密約』を書き上げます。

1978年、テレビ朝日は、開局20周年記念番組として『密約』をドラマ化しました。民放テレビではタブーとされていた政治問題を取り上げ、さらに「女性の視点から深く取り上げた質の高い秀作ドラマ」として評判になりました。ドラマは日本テレビ大賞優秀賞を受賞しますが、その後、一度も放映されませんでした。1988年には映画として公開され、モスクワ国際映画祭に正式出品されています。

33年たった昨年、千野監督が友人たちの要請に応えて「密約」の試写会を開いたところ、沖縄の基地問題について報道されている今でも、作品が新鮮であることから、配給会社の要望もあり、公開が決まったそうです。政権が交代になり、鳩山首相も沖縄基地問題に対して、一つの大きな決断を迫られている今、「密約」は日本国民への問いかけとして大きな意味を持つ存在となりました。

映画の中で澤地久枝さん役の大空真弓さんは、「筈見絹子が自主性を生きる女性として『国民の知る権利のためにそれをした……』と主張すれば、無罪になったかもしれないのに」と語っています。重要な立場にいるにもかかわらず、彼女は年が離れた病気の夫を抱えた女性として物事を判断しています。また、西山記者の後輩役の磯部勉さんは、「報道の自由がなければ、どんな自由もない」と裁判に不満を感じています。

開示を命じた東京地裁判決を不服とした政府は、4月22日、東京高裁に控訴しました。


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