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原発から自然エネルギーへ向かう欧州

「あけぼの」2011年7月号より) 伊藤千尋


福島第一原発の事故を機に、日本でも太陽光や風力など持続可能な自然エネルギーを増やそうという声が高まっている。だが、ヨーロッパを見ると、多くの国ではとっくに自然エネルギーに転換しているのだ。

1970年代の石油ショックのさい、アラブの石油に頼ってばかりではいけないと、世界の国は自前でのエネルギー開発に走った。そこで日本は一路、原発に走ったが、ドイツは再生可能エネルギーつまり自然エネルギーにシフトした。

燃料面での目玉がバイオマスで、その中心が「菜の花」だった。菜の花を田に植えて菜種油を採り、それを燃料に車を走らせた。すでに沖縄県の広さにあたる田が、菜の花畑に転換した。菜種油専用スタンドがあって、ベンツが菜種油で走る。

電力面では2000年に再生可能エネルギー法を制定し、2020年までに総発電量の20%を再生可能エネルギーにすると決めた。電力会社に対し、再生可能エネルギー電力を市場価格より高く買い取ることを義務付けた。町村などの自治体や個人が組合を作って共同出資して発電するようになった。

ドイツの再生可能エネルギーは2000年に総電力の6%だったが、2005年に10%、昨年は17%と着々と伸びている。そこで生み出された雇用は37万人だ。昨年だけで新たに3万人の雇用が生まれた。自然エネルギーは雇用の創出にも役立つのだ。

ドイツにも原発は17基あるが、今回の福島の原発事故を受けて政府は古い8基をすぐに停止させた。今後、2050年までに自然エネルギーで総電力の80%をまかなうことを目指している。

原発政策でドイツより進んでいるのがイタリアだ。チェルノブイリ事故の翌年、国民投票ですべての原発を閉鎖した。

いっそう進んでいるのがオーストリアだ。この国では「反原発」が国是となっている。

1999年には原発禁止を憲法に明記した。「オーストリアでは原子力発電所を建設してはならず、建設した場合には稼働させてはならない」という条項だ。

「建設した場合」に触れたのは、この国でも原発を作ってしまったためだ。1978年にドナウ河の河畔に原発が完成したさい、市民の反対運動が盛り上がり、これを実際に稼働していいかどうかを国民投票にかけた。その結果、過半数が反対した。500億円の費用をかけて建設したこの原発は、まったく使われなかった。日本なら、せっかくカネをかけたのだからひとまず使おうか、となりそうだ。このあたりが欧州と日本の意識の違いだろう。

せっかく作ったこの原発は今、1000枚の太陽光パネルを備えた太陽光発電所に生まれ変わった。今回の福島の事故でオーストリア政府は、欧州全体の脱原発をめざし「反原子力行動計画」を発表した。

さらに面白いのはスペインだ。再生可能エネルギーがすでに総電力の40%を占めている。広大な太陽光発電と風力発電の基地になっているのが、アフリカ沖にあるスペイン領のカナリア諸島だ。日本の憲法第9条の記念碑がある地だ。環境あっての平和、平和あっての環境なのだ。

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北極圏に近い島国、北欧アイスランドを訪れたさい、世界最大級の露天風呂を見た。サッカー場2面分もある巨大なもので、真っ青な色をしている。地熱発電所を作ったさい、ついでにできた「温泉」だった。

地熱発電は地下に溜まった高熱の水蒸気の噴き出る力でタービンを回して発電する。使われた蒸気が冷えて地表に溜まったのが、その温泉だ。せっかくだからと、有効利用しているのだ。

この国では地熱と水力発電で国内の電力のほぼすべてをまかなっている。それを聞いて思った。温泉が湧いている日本でも地熱発電はできるはずじゃないか、と。

調べてみると、日本でも地熱発電はしているが、総電力のわずか0,2%にすぎない。ところが研究所の調査によると、日本はアイスランドと並んで世界でも地熱発電に最も適した地であり、きちんと開発すれば原子力発電所20基分の電力がどれるという。

日本の地下には原油はないが、温泉はある。何もアラブから高い原油を買わなくても、自分のところにある温泉を有効に活用すればいいのだ。

なぜ、これまで地熱を活用してこなかったのか、技術がないのか、と調べた。すると日本は戦前から地熱発電を開発し、日本の地熱発電の技術は世界一であることがわかった。なんとアイスランドの地熱発電所にも発電設備を輸出しているのだ。世界トップの地熱発電機を作っているメーカーは日本である。東芝は全世界の地熱発電容量の25%の設備を供給している。

日本の技術をみくびってはならない。みくびるべきは日本の政治だ。せっかくの技術をきちんと活用せず、危険な原子力発電に安易に特化して開発を進めてきた政治こそが問題だ。

菅首相は断層帯の上にある静岡県の浜岡原発の停止を中部電力に要請した。静岡県には富士山があり、すそ野には自衛隊東富士演習場がある。ここに、米カリフォルニアの150万キロワットの地熱発電所を上回る世界最大の地熱発電所と露天風呂を作ればいい。そうすれば浜岡原発なんて不要だし、「いい湯だな」と楽しめるではないか。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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