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憲法を活かすコスタリカへの旅

「あけぼの」2012年4月号より)  伊藤千尋


スタディツアーを催している都内の富士国際旅行社が「伊藤千尋さんと行く『憲法を活かすコスタリカに学ぶ旅』」を企画した。集まったのは北海道から奈良県までの13人。ほとんどが「団塊の世代」で、男性は元裁判官を含む3人だけ。9条の会など地域や職場で活躍している「元気なおばちゃん」がほとんどだ。

添乗員を含め一行15人は、1月の中旬から下旬にかけてコスタリカに出かけた。現地での滞在は4日半だが、なにせ地球の反対側だ。往復に3日半かかり、計8日間の旅となった。

成田空港を午後1時に出発し、米国のアトランタ経由でコスタリカの首都サンホセに到着したのは、その日の夜9時だった。とはいえ、時差が15時間もあるためにそうなるのであって、日本時間からすればもう明け方である。眠い。

翌朝は6時に起こされ、バスでカリブ海沿岸に広がるトルトゥゲーロ国立公園に向かった。3時間ほど走ったところで、道の前方に人々が道路わきの木を見上げている。なんと、木の枝にナマケモノがぶら下がっていた。目の前5メートルの近さでこんな珍獣を見られるなんて、さすが環境立国の国だ。

川岸からボートに乗り、ワニや水鳥を見ながら2時間かけてロッジに着いた。地元の自然ガイドの案内でロッジの周辺を歩いて見て回る。ロッジの木の葉に、目の玉が赤く、世界で一番美しいと言われるカエルが乗っかっていた。頭上の熱帯雨林には、くちばしが黄色の鳥トゥカンがとまっている。昼食の野外レストランのそばの木の枝をよじ登っていたのはイグアナだ。食事をしていると、世界で一番美しいと言われる瑠璃色のモルフォ蝶が飛んできた。

その夜はロッジの集会室で、コスタリカの環境への取り組みの歴史を話した。いったんは、熱帯雨林を伐採したが、伐採から植林に転換し、今では国土の1/4が国立公園だ。翌日は先住民の村に行き、さらに国立公園内の水路をボートでめぐった。

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3日目からは歴史・平和に関する見学だ。まず訪れたのは国立博物館だ。かつて兵営だった。軍隊を廃止して平和憲法をつくったときの標語「兵営を博物館にしよう」を文字通り実行した建物である。内戦当時の銃弾の跡が残る壁の一角にはプレートがはめられていた。

「武器は勝利をもたらすが、自由をもたらすことができるのは法律のみだ」

内戦が終了したあとで政権を握ったフィゲーレス大統領の言葉だ。彼が実際に兵舎の壁をハンマーで壊した写真が残っている。

次に国会を訪問した。案内してくれた係員が導いてくれたのは、議員の席だ。自由に座っていいと言う。わたしは国会議員の席に座った。実は今も特別国会の開会中である。あと2時間で議員が入ってきて会議が始まるのに外国人を堂々と席に座らせるなんて、日本では考えられない。

国会の選挙は比例代表制で、議員は57人。うち女性が22人いる。1957年に選挙報を改正し、公務員の40%以上は女性でなくてはならない、という法律を作ってから女性の社会進出が目に見えて広がったと言う。

憲法で男女平等をうたうからには、実際にそうなるよう法律で制度作りをしていくのだという姿勢がここにある。日本では憲法の平和条項も男女平等もどうせ絵に描いた餅だと思われているが、コスタリカでは憲法で規定したことを実現する努力をきちんとしているのだ。まさに法律で自由をもたらしている。

さらに最高裁判所に行った。ここでも、22人の判事が集まる大法廷に入り、しかも裁判官の席にみんなで座って説明を聴いた。こんなの、権威ばかり重視した日本の裁判所では考えられない。参加者の中にいた元裁判官に最高裁の裁判長席に座ってもらった。「いやあ、日本ではかなわなかったから」と笑う。

コスタリカの裁判制度で特異なのが最高裁の第4法廷だ。違憲審査のみを行う機関である。違憲といえば、日本では大それたことだけを扱うが、コスタリカでは些細なことでも憲法に違反していると思えば市民が気軽に裁判所の窓口に駆け込む。壁が低いのだ。

提訴される多くは「庇護申請」だ。基本的人権が侵害されたという申し立てである。たとえば企業でのセクハラや家庭での虐待などがある。具体的に最近、どんな裁判があったのかを質問した。

コスタリカでは、働く人はすべての給料の9%を年金や保険に回している。だから病気になっても公立病院の治療費は無料だ。患者の一人が薬局に行ったが、目当ての薬がないと言われた。これは「健康で文化的な生活を送る」という憲法に違反するとして違憲訴訟に訴えた。判決は、政府に対して社会保障制度を早急に整えるように命じるものだった。

もう一つのケースは小学生が起こした訴訟だ。校長先生が校庭に車を止めたため遊べなくなったと提訴した。判決は校長が子どもの権利を侵害したと認め、直ちに車をどかせるよう命じた。

そんな些細なことまで違憲訴訟になるのか、と思われるだろう。しかし、逆に言えば、些細なことでも基本的人権が侵されることは見過ごさないという姿勢がここにはある。

4日目には……と書こうとしたら紙数が尽きてしまった。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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