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活憲とヒューマンライツ(人権)

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カレンさんが語るコスタリカ

「あけぼの」2012年5月号より)  伊藤千尋


コスタリカ訪問の続きを報告しよう。

最終の4日目には、元大統領夫人のカレン・オルセン・デ・フィゲーレスさんを自宅に訪ねた。1949年に平和憲法を制定したさいの最大の功労者、故フィゲーレス大統領の夫人だ。私も共同代表を務める「コスタリカ平和の会」が2002年に日本に招き、全国各地で講演をしてもらったことがある。

カレンさんは、元々はデンマーク人だ。肌は白く、目が青い。米国に移住して大学院生だったとき、教授に見初められて結婚した。その教授が後にコスタリカ大統領となったホセ・フィゲーレスだ。彼女自身、国会議員や国連代表、イスラエル大使などを歴任した。その子も1990年代に大統領になった。彼女は今やもう80歳に近い。

首都サンホセ郊外の住宅地の一角すべてを占める豪邸は、門を入ってから玄関まで、広大な庭が続いた。車が通る道に沿って紫陽花が植えてある。玄関の前には、コスタリカの象徴である球形の石が置いてある。白亜の平屋建てに入ると、左側が応接間、その奥がカレンさんの書斎だった。壁一面をびっしりと分厚い本が埋めるこの部屋で、カレンさんと向き合った。

カレンさんはまず、東日本大震災に触れた。「日本人はどんな苦境でも乗り越えていく国民です。今回の逆境も克服すると思っています」。そのうえでコスタリカについて語り始めた。

「コスタリカは中南米で最も民主主義の歴史が長い国です。地形は日本とよく似ていて、両側に大洋があり、国土の中央を南北に山脈が走るため豊富な水が川となって流れ、水力発電でエネルギーが確保されています。人口は450万人、面積は5万平方キロ、小さな国です。教育は無償で義務教育であり、就学率は97%です。1948年に女性の参政権が認められ、政府の主要ポストの50%は女性が占めなければならないことになっています。現在の大統領は女性です。大学の学生数は女性のほうが多いです。国土の25%は国立公園などの保護区になっており、首都を一歩出ると自然があります」

「景気の後退で貧しい人がさらに貧乏になっています。不平等や富の格差が問題で、貧富の差をなくすことが大切です。私たちに何ができるでしょうか。何か一つでもやれることをやれば、社会は変えていけます。何でもいいから、何か一つやればいい。近所の人と話し合うことだっていい。常に考える姿勢を持つことが肝心です。この世界のできごとを自分のせいではないなんて言えない。私たちすべてが世界の要素なのです。私たちはそこに関わりがないとは言えません。何かを思いついたらまず隣の人に声をかけて提案してみるなど、できるはずです」

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「私たちには3つの義務があります。考えること、愛すること、奉仕することです。この3つを使って、今の世界を少しでも変えることができます。このうち、考えることが最も重要です。世界は違う文化、違う言葉があり、好みも違います。でも、みんな同じ悩みを抱えています。知ることは義務です。自分は何者か。自分のことを知らなければ奉仕もできません。だれもが自分は何者かを考えてほしい。自分の中に自分の価値を見いだしてください。自分で自分を見極めてください。この世界は一人では変えられないけれど、一人からしか変えられません」

「自分は貧しいから世界を変えられないと思うかもしれません。まずできることから提案したらどうでしょうか。それが国を豊かにすることにつながります。小さいことから始めましょう。たとえば『ほほえみキャンペーン』なんて、日本でできないでしょうか。難しいことではありません。あなたが街で微笑みかければ、相手はびっくりするかもしれませんが、心地よい思いをして、別の人に微笑みかけるかもしれません。日本に帰ったら、道を歩いているとき、見知らぬ人に微笑みかけてみませんか。それで社会が少しずつ良くなるかもしれません。私たちはこの地球上で、他の人といっしょにいるからこそ生きられるのです。この地球に『プランB』はあり得ません。隣の眠っている人を起こして、いっしょに考えることが大切です。今の社会はあまりにも非人間的です。自己中心的です。それでは地球は救えません。」

「コスタリカは軍隊を持っていません。軍隊を廃止して60年たちました。日本が軍隊を公認する日が来ることを、私は懸念しています。いま、民主主義のために世界で人々が立ち上がっています。その中には、軍が国民を弾圧している現実があります。国民が何を求めているかを考えるのは、政府の義務です。民主主義は、求めることを国民自身が決定するシステムです。みなさんに質問したい。100億円で軍隊をつくり武器を買い兵士の食糧を買って、それを国民が負担し、あなたの子が兵士となって戦場で死ぬとしたら、あなたはどのように感じるでしょうか。私たちの国はそのカネを教育に回しました。軍隊のカネを教育、文化、住宅の確保に回したらどうでしょうか。同じカネでも、軍に回したら人が殺される危険に常に瀕することになります。それを教育に回せばどんな違いがでてくるでしょうか」

カレンさんの話はまだまだ続く。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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