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自民党による憲法改悪は上からのクーデターだ

「あけぼの」2013年7月号 )伊藤千尋


映画「男はつらいよ」のシリーズを制作した山田洋次監督に4月、インタビューした。約束の20分が1時間にもなったが、終わると監督は逆に私にこう質問した。

「自民党の安倍政権が国民の70%もの支持率を得ているとマスメディアは言うけれど、国民をそうしたのは日本のマスメディアではないですか。自分たちで世論を作っておきながら、それをもとに安倍政権を持ち上げるのは、おかしくありませんか。今の日本は、戦争を知らない世代が政治を牛耳っています」

まさにその通りだ。

中国や韓国との領土問題で日本人の愛国心をあおり、北朝鮮のミサイルをことさらに強調して国民を戦々恐々とさせ、その一方で原発の撤廃を求める市民運動は黙殺してきたのが日本のマスメディアだ。

今の新聞社でジャーナリズム精神を抱いて記事に活かしている記者は1、2割ほどでしかない。多くの記者は過度に自主規制して、ジャーナリストという職業意識を放棄している。マスコミ会社の単なるサラリーマンとなり「無難な」記事だけを書く。官庁に配置した記者クラブにいて役人が語る言葉をそのまま伝えるのが仕事だと考え、市民が政治への抗議デモをしても「一部の人の動きを伝えるのは中立でない」と「中立」の名の下に無視しがちだ。

テレビは「面白くなければテレビではない」とニュースも娯楽路線に徹し、週刊誌に至っては国民を戦争に駆り立てる論調を競って載せる。その結果、まともな議論ではなく一時の感情に乗って社会が浮遊するおかしな時代になった。

そんな中、日本は今、戦後で最も危うい緊急事態を迎えている。

安倍首相が率いる自民党は昨年末の総選挙で圧勝し、極右の維新の会を合わせると、衆議院の圧倒的多数を握った。発足の当初はアベノミクスという、かつて米国のレーガン大統領が掲げた経済政策レーガノミクスの物まねを持ち出した。一時的には景気を浮揚させるが、やがて大赤字をもたらし国家経済を破たんに追いやることは、米国の経験で証明済みだ。だが、一時的にせよ長い不況から脱したように見えるため、国民の人気を得ることに成功した。

その勢いに乗って画策するのが憲法改悪、いや本質は「上からのクーデター」である。

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自民党は昨年、「日本国憲法改正草案」を出した。第1条で天皇を元首と定め、国旗としての日章旗、国家としての君が代を強制する。国民主権をないがしろにするだけではない。結社の自由や公務員の権利を制限するなど、国民の権利を大きく抑圧し、戦前の統制国家に戻そうとする時代遅れの反動憲法案である。

天皇の規定に続くのが国防軍だ。それも日本の防衛に限るのではなく世界どこにでも出撃するという。主権が天皇にある、国民の権利が制限され、かつ公務員が政府に統制されたうでの無制限な軍事行動といえば、もはや戦前の帝国憲法そして軍部の復活ではないか。日本国憲法の改悪といったレベルではなく、国の在り方を根本から覆し、100年前に戻してしまうことになる。

しかも自民党のやり方は狡猾で、平和憲法の根幹である第9条にいきなりかみつくのでなく、憲法を変える手続きを定めた第96条から変えようとしている。抵抗の少なさそうな部分から攻めていき、ついには全部を乗っ取ろうとする策略だ。

憲法とはそもそも政治家たちの権力を縛るものである。憲法第99条は天皇と並んで「国務大臣、国会議員らはこの憲法を尊重し擁護する義務を負う」と明記している。その彼らが憲法を擁護するどころか、ぶち壊してまったく別物にしようとしている。安倍政権と自民、維新の議員が現在行っているのは憲法違反であるのはもちろん、議員によるクーデターである。

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公正な選挙で選ばれたというが、昨年の総選挙の比例区の得票率を見ると、自民党は27.6%にすぎない。前回が26.73%だったから、自民党の支持は1%も増えていない。けっして民主党の支持者らが自民党に大挙して流れたのではない。しかも投票率は45%だったから、自民党は有権者のわずか1割余りの支持しか得ていないのだ。

それが衆議院480議席のうち294議席、つまり6割を超える議席を占めた。こんなおかしな結果になったのは、小選挙区制という非民主主義的な制度のせいだ。その議員たちが国民の代表と言い張って国民から主権を簒奪(さんだつ)しようとしている。

こんなことを許すなら、日本はもはや民主主義の国とは言えない。

では、どうすればいいのか。今こそ訪われるのが、下からの民主主義の構築だ。

5月の朝日新聞の世論調査では、憲法第9条の維持に賛成する人々は52%で、有権者の多数を占める。世の中の意見は、国会の勢力地図とは違う。自信を持とう。そして市民の運動を広げよう。

憲法の危機に当たって2004年に発足した「九条の会」は、今や日本中に7500以上もある。原発事故を契機に起きた東京の首相官邸前の金曜デモは、今なお数千人の規模で毎週、続いている。同じようになデモは全国に広がった。

マスメディアは当初、金曜デモを無視した。しかし、10万人規模になると、報道せざるをえなくなった。日本を軍事国家に戻したくないなら、子どもを戦場に送りたくないなら、マスメディアを覚醒させるほどの大きなうねりを創り出すことだ。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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