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活憲とヒューマンライツ(人権)

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社会を変えるのは私たち市民だ 具体的に実行する宮崎の母たち

「あけぼの」2013年8月号 ) 伊藤千尋


「生命を生み出す母親は 生命を育て 生命を守ることをのぞみます」をスローガンに、日本で母親大会が開かれて半世紀以上になる。県や市のレベルでも大会が行われている。この5月末私は、宮崎県の母親大会で「社会を変えるのは私たち〜憲法を活かし原発も基地もない世界を」と題して講演した。

講演に先立って「平和に生きていますか」をテーマに分科会が行われ、その助言者になった。集まったお母さんたちはここ数年、口蹄疫の流行や新燃岳の噴火など大変な事態を乗り越えてきた人々だ。話し合いは率直で、発言の中身は濃かった。

まず日本国憲法の前文の感想を出し合った。心に残った文句として挙がったのは「人類普遍の原理」「再び戦争の惨禍が起こることのないやうに」という言葉だ。素直に読んでいるなあ、と私には思えた。

というのは、つい最近、知人の男性が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という言葉を取り上げて「中国なんて信じられるわけがない。こんな憲法は変えるべきだ」と言ったからだ。

文言をよく読んでほしい。信頼するのは「諸国」でなく「諸国民」なのだ。中国も日本も、政府はくるくる変わる。信頼すべき対象はその時々の政府ではない。平和な社会で暮らしたいとの切実に考える同じ国民同士なのだ。

日本国憲法が目指すのは、単に自国の利益だけではない。戦争で命を失った犠牲者、遺族らの悲しみを繰り返したくないという全人類の思いの実現である。そこに他の国の憲法とは違う崇高な性格がある。

「戦力を持たないことは理想だけれど、丸腰では心もとない」と若い母親が素直な心情を吐露した。もっともだ。そこで私は解説した。

国家が持つ武装組織には三段階ある。社会の治安を保つ警察、国境を守る警備隊、そして他国との戦争をするための軍隊だ。日本では国土交通省に属す海上保安庁が国境警備隊に当たる。その上に軍事組織としての自衛隊がある。

日本と同じく平和憲法を持つ中米のコスタリカにも警察と国境警備隊はあるが、軍隊は廃止した。それで半世紀以上、問題なくやっている。日本国憲法が放棄したのは軍隊であって、国境警備隊まで放棄したわけではない。丸腰ではないのだ。海上保安庁というと軽く見られがちだが、実は500隻を超える船舶を抱えた強力な組織である。

日本は小さい国だと思われているが、海を含めると世界で6番目の大きさを持つ。海上保安庁はさらに太平洋の西半分をも管轄して海難事故に救援や警備などに当たっている。

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次に分科会の参加者は自民党の改憲案を読んで意見を述べ合った。最初に発言した女性は「今の憲法にある『平和に生きる権利』が抜けている」と指摘した。慧眼(けいがん)だ。自民党案の本質を突いている。国民が安心して暮らすためにこそ憲法がある。なのに、天皇の名において戦争ができる国にし、国民を国家に奉仕させようとするのが自民党案だ。

「主語が『日本国』とか『我が国』になっているよね」と発言した母親もいた。確かにそうだ。一方で、国民を主語にした条文は「……しなければならない」と、義務を課すものばかりだ。憲法を国民のためでなく、国家が国民を支配する道具にしたいという意図がはっきりと見える。

そこから「軍にとって従軍慰安婦は必要だ」という日本維新の会の橋下徹共同代表の発言に、話が移った。「橋下はアメリカに謝罪したが、誤る相手が違う」「歴史的な女性蔑視が今も政治家にそのまま残っている」などの発言が続出した。

討議の内容は原発に移った。「世界が変になった責任はマスコミにある。読売新聞の正力松太郎が米国の支援を受けて日本に原子力政策を進めた」と解説する男性がいた。まさにその通りだ。

被爆国である日本人の核アレルギーを取り除きアメリカに対する嫌悪の感情を除こうと画策したのが、読売新聞の元社主で国会の初代原子力委員長であり「原子力発電の父」と呼ばれる正力氏だ。彼の部下が米国のCIAと結託して日本の原子力の導入を図ったいきさつは、NHKでも放映された。

では、マスコミをどうすれば変えられるのか。「うちの夫は、NHKのニュースを見ておかしいと思ったらすぐに電話する」「新聞を読んでおかしいと思ったことを地元紙に一年間書き続けた」という発言があった。実は、それが何よりの方法だ。

マスコミは視聴率や読者の反応を気にする。NHKと違って英国のBBC放送が政府にきちんと対抗しているのは、視聴者から寄せられた支持を政府に示せるからだ。グチを言うだけでなく、市民の力でマスコミを変えるという視点が欲しい。

最後に、真実を知り、さらに伝える大切さを確認し合った。「5年前から2か月に一度の割で基本的人権の学習会をしている」「車にマイクを積んで土曜日に街頭演説をしている」「宮崎県は堕胎の割合が全国一。基本的人権の感覚が欠けている。人権を守る社会にするには、私たちが声を上げることが必要。だから「しゃべろう会」を作った」というお母さんもいた。

ただ嘆いているだけでは社会は変わらない。具体的な行動を身近なところから起こすことが変化の第一歩であることを、きちんと自覚し実行している。

苦難を経た宮崎の母親は元気だ。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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