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活憲とヒューマンライツ(人権)

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富裕層の富裕層による富裕層のための経済  -消費税とアベノミクスの行方-

「あけぼの」2013年12月号) 伊藤千尋


安倍首相は10月1日。消費税を今の5%から来年の4月には8%に上げると発表した。

財政を健全化させると言えば聞こえは良いが、同時に企業向けの大幅な減税も決めた。

つまりが国民から吸い上げたカネを大企業にまわすということだ。

同じ日、アメリカでは多数の政府機関が一時閉鎖に追い込まれた。10月から始まる新年度の予算案が議会で拒否されたためだ。ホワイトハウスの職員や航空宇宙局を含む80万人の公務員が自宅待機となり、世界の観光客が訪れる「自由の女神」やスミソニアン博物館など名高い施設が軒並み閉鎖になった。

日米で同時に進行したこの奇妙な政治の根は一つだ。今の政治家はほんの一部の富裕層のためにしか政治を行っておらず、圧倒的多数の一般国民には目も向けていないということである。

               

まず日本を見よう。

「経済再生」と「財政健全化」を掲げて自民党は先の参議院選挙で圧勝した。その政策はつまるところ、大企業にテコ入れして景気を上向きに持っていけば、自然と社会全体の景気も良くなる、という考えに基づいていた。

これは「神話」である。それが間違っていることはアメリカで実証済みだ。

レーガン元大統領の時代にトリクルダウンという理論がアメリカで盛んに叫ばれた。大企業がもうかれば、その利益がやがて雨のしずくのように滴って庶民にいきわたるようになる、という考えである。言い方を変えれば、大企業のおこぼれで庶民は生きていけ、という発想だ。実際、皮肉を込めて「おこぼれ経済」と呼ばれた。

新自由主義に典型的な発想で、富める者を重視し弱者を社会の厄介者と位置付けるものである。レーガン大統領が取り組んだ経済政策のため、レーガンとエコノミクスを合わせてレーガンノミクスと呼ばれた、そう、アベノミクスは、これを無批判にそのまま取り入れたのだ。

では、レーガノミクスはどうなったか。確かに景気は良くなり、失業率は改善した。だが、それは一時のことだった。やがて財政赤字が爆発的に膨らみ、これが米国経済を崩壊させた。次のクリントンになって逆に弱者中心の政権を行い、経済は立て直された。レーガン政権の経済顧問が後に、このレーガノミクスはレトリックに過ぎなかったと自嘲的に語っている。

今、アベノミクスがもてはやされているが、中身はこのような砂上の楼閣なのだ。日本経済を救うどころか、その先に今よりはるかにひどい財政赤字を抱えることが目に見えている。

安倍首相と自民党の政策は、国民全体の利益を念頭に置いてはいない。一部の金持ちや大企業だけの儲けしか頭にない。そのために平気で国民を犠牲にする。経済政策だけでなく、原発やTPPに対する政策を見ても同じだ。電力会社や大企業だけが懐を肥やせばいいという考えが今の日本でまかり通り、一般の国民生活がわきに追いやられている。

それを目に見える形で示したのが、今回の消費税値上げだ。消費税の収入は本来、年金や医療などの社会保障に使うと法律で決まっている。安倍首相もそう断言しているが、企業向けの減税とセットとなれば、消費税の増税分が企業の利益にまわされることは明らかではないか。

政府はいったい、だれのためにあるのか。一部の富裕層がいっそう豊かになり、貧しい者はさらに貧乏になるとどうなるのか。それは今のエジプトやトルコなど世界が示している。人々の不満は暴動となりかねない。羊のようにおとなしい日本人だからと甘く見ていれば、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。

               

では、米国はどうか。米国の混乱は、オバマ大統領が選挙のさいに掲げた医療保険制度の改革を実施しようとしたのに対し、野党の共和党が強硬に反対していることが原因だ。

日本も欧州も国民医療保険の制度が整っているが、米国にはこのような制度がなかった。国民の健康は国民自身が民間の保健会社に入ればいいのであって、国が面倒を見るのは社会主義の考え方であり米国にはなじまない、という伝統的な考えが底にあるからだ。

このため米国では、貧乏で保険に入れない人は病気になっても病院に行けない。なにせ救急車に乗るだけで日本円にして7万円をとられる国だ。入院しようものなら何10万円いや何100万年という請求書が来る。米国を表すのに最も適しているのは「地獄の沙汰もカネ次第」ということわざだろう。

かつて「人民の人民による人民のための政治」とたたえられたこの国は、一方で「富裕層の富裕層による富裕層のための経済」を行っているのだ。「アメリカン・ドリーム」は貧乏人が一挙に億万長者になれるという夢を誘うが、言葉を換えれば、豊かになれない大多数の人々は完全に社会の落ちこぼれになるということである。こんな非人間的、非人道的なことがまかり通っているのが、金融資本主義の大国であり、安倍政権が見本とする社会なのである。

かつて社会主義を目指したソ連は世界の大国となったが、実のところは国民にパンも配れなくて崩壊した。対極の資本趣致の頂点の米国で今、パンがあり余っていながらパンを食べられない人、せっかく買った住居を追い出される人が増えている。そんな社会が健全であるはずはない。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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