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活憲とヒューマンライツ(人権)

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右旋回から「沈没」へ  集団的自衛権とは

「あけぼの」2014年 7月号) 伊藤千尋


韓国でいたましい事故が起きた。修学旅行の生徒たちを乗せたフェリーが沈没し、大勢の子どもたちが亡くなった。原因は素人に近い航海士が船を急速に右旋回したことと、安全を無視した過積載だ。おまけに沈没する直前に船長ら乗組員は乗客を見捨てていち早く逃れた。

急速に右旋回し、安全性を無視し、操る者だけが生き残って一般人は犠牲になる。これって戦前の日本ではないか。いや、今の日本も、いったん政治を投げ出した安倍首相が急速な右傾化を進める。そのまま「日本沈没」に直結しかねない。

安倍政権が発足して言い出したのが憲法9条の「改正」だ。自衛隊を国軍にして日本を戦争ができる「普通の国」にしようと声高に叫んだ。ところが、国民はなびかず、9条を堅持しようという世論が根強い。このため憲法を改正しやすくしようと憲法96条を変えようとした。これは近代憲法の立憲主義を壊すという批判が保守派からも出て、あえなく頓挫(とんざ)した。

その後は武器輸出三原則を緩めて平和国家の日本が武器を輸出できるようにし、政府が国民に隠れて好き勝手な政策がやれるよう秘密保護法を成立させた。そのうえで持ち出したのが、集団的自衛権と解釈改憲だ。

集団的自衛権とは、仲間がだれかに襲われたら、その仲間を守るために戦うことだ。自分は関係なくても、仲間が戦争すれば自動的に戦争しなくてはならない。「アメリカの軍艦が襲われたとき、日本が助けなくていいのか」と安倍首相は言う。つまり仲間とはアメリカのことだ。けっしてアジアの同胞ではない。

これは実に危険な話である。アメリカは何かにつけ、紛争を武力で解決しようとしてきた。アメリカがいったん戦争を始めれば、日本も否応なく戦う状況を、わざわざ日本がつくろうというのだ。

集団的自衛権という言葉が国際的にどんなときに使われたか。ベトナム戦争のさい米国が南ベトナム政府を守るためと言って介入の口実とし、旧ソ連がアフガニスタン政府の要請だと言って出兵したことを見れば一目瞭然だ。自衛でなく侵略のために使われた概念である。

アメリカが戦う国に日本も参戦すれば、その国にとって日本は侵略国となる。イラク戦争に当てはめれば、アメリカから要請があれば日本は戦場に自衛隊を送ってイラク市民を殺す殺すことになり、イラク市民からは侵略者と呼ばれる。もちろん自衛隊員に死者も出るだろう。

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戦後、一貫して海外の戦争でだれ一人死ななかった歴史に泥を塗るばかりか、無用な恨みを受ける。苦笑するのは「アメリカを助ける」という安倍首相の言い草だ。おお、日本の自衛隊は世界最強のアメリカ軍を助けるほど強力な軍隊だったのか、と目をパチクリする。

日本の憲法は、紛争を武力でなく平和で解決することを世界に宣言した。それを集団的自衛権という一言であっさり放棄しようとするのが解釈改憲だ。憲法が意味するものを閣議で勝手に解釈して好きに決めようというのだ。閣議に参加する閣僚は首相が任命するのだから、首相一人の意思で憲法をどうにでも左右できることになる。

つまり首相が独裁者になるわけだ。民主国家ではありえないことである。こんなことを政治家が言い出すこと自体、すでに民主主義が侵されていることになる。非常識を平気で口にする首相は、民主主義の基本を理解していない。

まもなく69回目の終戦記念日が来る。ドイツが第2次大戦を終えたのは6月8日だが、ドイツではこの日を「民主主義の日」と呼ぶ。独裁支配で国家が破たんし、国民が犠牲となったことを反省し、この日をもって民主主義を築いていくという決意を込めた。

40回目の「民主主義の日」に、当時のワイツゼッカー・西独大統領は「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥る」と述べた。その通りだ。

60回目の「民主主義の日」に、ドイツはユダヤ人虐殺を忘れない決意を示すために首都の真ん中、国会議事堂のそばに壮大なホロコースト記念碑を建てた。同じ年、日本では首相が靖国参拝をして中国や韓国の怒りをかったのと正反対だ。

安倍政権の矢継ぎ早の右傾化政策に見られるのは、焦りだ。国民が思い通りにいかないため、これでもかと無理な手法を次々に繰り出し国民に押し付けようとする。このため足元からも反発が生まれている。自民党の議員や右派の官僚が雑誌に反論を堂々と投稿するようになった。

安倍政権は遠からず破たんするだろう。より望ましいのは国民の力で破たんさせることだ。日本の国会のそばにホロコースト記念碑はないが、原発反対の声を上げる国会周辺の金曜デモはすでに100回を超えた。こうした目に見える動きが、政権を倒す力となる。今こそ右傾化から日本を守ろう。国民が集団となって平和な社会を自衛しよう。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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