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活憲とヒューマンライツ(人権)

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国民主権を現実のものに 住民投票の思想

「あけぼの」2014年12月号)伊藤千尋


英国のスコットランドで9月、独立をめぐる住民投票が行われた。11月9日にはスペインのカタルーニャ州で同じく独立をめぐる住民投票が計画されたが、実施をめぐってもめている。現代の民主主義は議員を選んで政治を決める代議制。つまり間接民主制が一般だが、大きな懸案は国民あるいは住民の投票で決めるのが政治の先進国でのやり方だ。

イタリアで2011年6月に国民投票が行われた。凍結していた原発を再稼働させ新規の原発を建設する法案が国会で決まったのに対し、その是非を問うた。この国では有権者50万人の署名が集まれば、法律を廃案や削除することを国民投票で決定できる。

イタリアも日本と同じで昨今は投票率が下がっていたが、このときは福島の事故の直後のため投票率が50%を超えて成立した。その結果は95%が原発再開に反対だった。このため新たな原発の建設はせず、すでにある原発の再稼働も行われないことになった。

このような制度が日本にはない。国会の議席の大半を与党が占めれば、どんな法案でもやすやすと国会で決まってしまう。異議を唱えるにしてもデモや集会を開くくらいだ。次の選挙まで待つしかない。と国民はあきらめがちだ。しかし、イタリアのような制度があれば、国民の意志と行動によって今すぐ、国民の総意として国政に「NO」を突きつけることができる。

住民投票と原発と言えば、思い出すのは米国カリフォルニア州のサクラメント市で行われた住民投票だ。この街にしょっちゅう事故を起こすので悪名高いランチョセコ原発があった。トラブルが起きると、その分だけ経費がかさみ、電力料金が高くなる。大きな事故につながる可能性もある。そこでこの原発を廃炉にすべきだと考えた住民が住民投票に持ち込んだ。

ここで反原発派の市民がしたたかだったのは、住民投票を二度にわけたことだ。原発が危険だと内心思っていはいても、どの程度危険なのか、原発に代わる電力があるのか、など住民の心は揺れていた。住民投票をしても原発廃棄になりそうもない状況だった。

そこで最初の1988年の順民投票では「とりあえず一年半だけは操業するが、その後は住民投票で決める」という案への賛否を図った。穏健な内容だけに賛成が集まった。続く一年半の間、原発の学習会を開き、住民の意識を高める努力をした。その結果、2回目の1989年の投票では運転停止が53%を占め、原発の廃炉が決まった。かつての原発の敷地には今、太陽光のパネルが並び、原発は太陽光発電所に変わった。

日本でも似たようなことがあった。新潟県巻町に原発が建設されようとしたさい、反発した住民の運動が盛り上がり、住民投票実行委員会が立ち上がった。原発推進派の町長をリコールで辞任に追い込んだあと、全国で初めて常設型の住民投票条例を議会で制定した。その最初の例として原発建設の是非を問う住民投票が1996年に行われた。原発反対派が圧勝した。

以後、各地の自治体で住民投票の条例が制定され、住民の意思に基づいて政策が決定されるようになった。平成の町村合併のさいには全国に広まった。

近代議会の発祥地は北欧のアイスランドだ。ユーラシア・プレートと北米プレートの分け目で生まれたのがこの島で、国立公園の中にギャオと呼ばれる「大地の裂け目」がある。世界初の議会はこのギャオで生まれた。西暦930年に島民が集まってアルシンギという話し合いを開き、「王様はいらない。法律が王様だ」と決めた。

それからは毎年6月の2週間、島民はここに集まって今後の政治をどうやっていくか、を話し合いで決めた。人口が増えるとやむなく代議制になったが、社会を構成するすべての大人が意見を交わし、とことん話し合って自分たちの行方を決めるのが本来の民主主義だ。

南米ブラジル南部のポルトアレグレ市では、毎年の予算の重点を何に置くかは市民の投票で決める。細かい使い道を議会で議論する仕組みだ。

日本では、いったん選挙で選んだあとは議員にすべてを任せがちだ。その背景に、江戸時代から明治になっても、だれか「偉い人」が社会の方向を決め、庶民は黙って従うものだという発想がまかり通ってきた歴史がある。戦後に民主主義がもたらされたが、自前のものではないだけに今も完全に根づいたとは言えない。政治の近代化ではまだ発展途上だ。

人任せにしていては憲法の柱である国民主権は根づかない。憲法改正のさいには国民投票が行われるが、ほかにも国民あるいは地域全体にかかわる場合は、住民投票がより多くの機会に採用されるべきだと思う。

民主主義を根づかせるためには、国民自らが常日ごろから実戦するしかない。わたしたちの社会をどうしたらいいのか、自分で考え行動する習慣が必要だ。


著者紹介:
伊藤 千尋(いとう・ちひろ)
朝日新聞ロサンゼルス支局長、月刊誌「論座」編集委員を経て、現在「be」編集委員。著書に『活憲の時代─コスタリカから9条へ』ほか多数がある。

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