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シスター三木の創作童話

4月8日の日曜日

船に乗った良平さん

 「ちきしょう、いい天気だなあ」
 良平さんは、窓をあけました。見わたすかぎり、ビルの街です。
 「ああ、あ、どこかいいところに行きてえなあ」
 良平さんは、ポケットから、さいふをとり出すと、たたみの上に、ばら、ばらっと、お金をあけました。
 「ちぇっ、だめだあ、給料前だもんな、金がねえや、つまんねえの」
 良平さんは、たたみの上にごろりとひっくりかえりました。ぼんやりと空を見上げているうちに、子どものころのことを思い出しました。

 ああ、空が青かったなあ、真っ青だったよ。
 日曜日、教会の帰りに日曜学校をさぼってよく山へのぼったなあ、神父さんにつかまらないように逃げるの、おもしろかったなあ。
 良平さんは、にやっとしました。そのとたん、くわえていたたばこが落ちそうになりました。

 「おっとっと、あぶない」
 そこで良平さんは、このごろ、じぶんがちっとも教会へ行っていないことを思い出しました。
 良心が、チクリと痛みました。

 「やばい、やばい」
 良平さんは、大いそぎで、神父さんにつかまらないように逃げたところにもどりました。
 「そうだ、なの花が黄色いじゅうたんのように広がっていて、その向こうに海が見えたっけ、青い海と青い空はつづいていたなあ、銀色の波が、ちかちかひかってたよ」

 良平さんは、ぷかーっと、たばこの煙をはき出しました。煙は、ドーナツのような輪になって、天井の方へあがっていきました。良平さんは、つづけざまに、ぷかり、ぷかりと煙の輪を出しました。さわやかな風が、良平さんのほっぺたをなでて通ります。ただこの煙の輪は、だんだん大きくなって、「ポン、ポン、ポン」と音を立てはじめました。良平さんは、いつの間にか、ポン ポン蒸気船の甲板に立っていたのです。船は、青みどりの海水を切るように、がぶり、がぶりと進んでいきます。澄みきった海面に、くらげが泳いでいます。

 「あいつにさされたら、痛いぞう」
 良平さんは、くらげにさされたときのことを思い出しました。そしてチクリと肩に痛みを感じました。

 船は、急に進路をかえはじめました。どうやら、バックするようです。もっと、もっと沖へ行きたかった良平さんは、船長にかけあうことにしました。
 「船長さん!」
 船長さんがふりむきました。
 「ああっ、神父さん!」
 それは、良平さんが子どものときの神父さまでした。

 「ひゃあーっ」  良平さんは、そこで目がさめました。どうやら良平さんは、いねむりしていたようです。  くらげにさされて痛かったと思った、あの肩のあたりが丸くこげていました。
 「やややっ、たいへんだ、たたみがこげている」
 良平さんがくわえていた、たばこが落ちていたのです。良平さんは、急に教会がなつかしくなりました。良平さんは、かべにかかっているカレンダーを見ました。

 「こんどの日曜日は、8日か、ずいぶん教会にごぶさたしちまったなあー」
 良平さんは、8日の日曜日に教会へ行こうときめました。長いこと教会に行ってなかった良平さんは、8日がイースターだってことを知りませんでした。


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