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シスター三木の創作童話

北風小僧とおばあさん

落ち葉はきをするおばあさん

 冬の朝だというのに、青い空に白い雲がぽっかりと浮かんだりして、うらうらとやわらかい日ざしが寒さで固くなった地面にふりそそいでいました。おばあさんは、いつものように庭の落ち葉はきをはじめました。おばあさんは、ひとりごとをいいました。
 「きょうは、風ものうて掃きやすいわ。それに落ち葉だきにはもってこいの日和」

 おばあさんは、落ち葉をまるく掃き集めました。そして、着物のたもとからマッチをとり出して、枯れ葉につけようとしたときです。突然、つむじ風が巻き起こって、せっかく集めた落ち葉をあたりにまき散らしてしまったのです。
 「これっ! 北風小僧だね。そんなことしたらほかほかの焼きいも、あげないよ」

 おばあさんは、両足をふんばって、竹ぼうきを鬼の金棒のように持つと、見えない風に向かってそういったのです。すると、おばあさんのことばが、まるで魔法のおまじないだったかのように、落ち葉は、すーっと輪を描いてもとのところにもどってきました。
 「そうそう、それでよし。おいもが焼けたらあげようね」

たき火

 おばあさんは、ぱちぱちと燃えてくすぶる落ち葉の山の中に、赤むらさきのさつまいもを二本おしこみました。
 しばらくすると、ぷーんとおいもの焼けたにおいが、山になった灰の中から立ちのぼってきました。おばあさんは、焼けて黒くくすぶる灰の中に、火ばしをつき立てました。こんがり焼けたおいもが出てきました。

 「さあ、焼けたよ」
 おばあさんがそういうと、おいもは、おばあさんが持っている火ばしから、ひとりでにぬけ出て、宙にとんだのです。

 「あわてんぼ。やけどするよ」
 熱いものを持つときに、右に左にといそがしく持ちかえるときのように、おいもは、空中で右に左にゆれながら、庭の真ん中のねずみもちの木の枝まであがって、そこでとまりました。

 「はっはっは。北風小僧。おいしいかい」
 ねずみもちの木の上の焼きいもは、ゆげを立てながら、みるみるうちになくなっていきました。おいもがなくなると、枝がざわざわっと大きくゆれました。ただそれだけでした。

 「あの子は、いつも元気だね。子どもは風の子っていうけど、あれはほんものの北風小僧だからね」
 おばあさんは、そういいながら、まだくすぶっている灰に水をかけると、焼きいもを持って、小さな家の中に入っていきました。

 どうしたわけか、北風小僧とおばあさんは、もう長いことつきあっていて、仲良しだったのです。北風小僧は、冬になって自分の出番になると、きまって、まず、おばあさんの庭を訪れては、ちょっといたずらをして、おばあさんの気を引くのでした。おばあさんの方でも、そんな見えない北風小僧が、なんだか見えているように思えてくるのです。それは、風が、おばあさんのいうことをよく聞いてくれるからでした。

空に上がる凧

 焼きいもでお腹がくちくなった北風小僧は、良い気持ちになって空をゆっくりと、吹きわたっていきました。ビルの間を縫うようにして吹きぬけていくのは、スリルがありました。ときには、高いビルにぶつかって落ちることもありました。

 北風小僧は、なにかいたずらをしたくなりました。そこで、あたたかい日ざしを受けて、屋根でぬくぬくと、日なたぼっこをしていた大きな三毛猫の背中の毛を逆なでして通りました。猫のやわらかい茶色の毛が逆立って白い地肌がのぞきました。猫は、『ぎゃあーっ』とさけんでとびあがり、場所をかえて、くしゃくしゃになった毛並みをなめてととのえはじめました。北風小僧は楽しくなって『ぴゅーっ』と口笛を吹きました。その勢いで、道をいくおじょうさんの帽子がとびました。すると、近くにいた若い男の人がそれを拾ってあげました。それがきっかけで、二人は肩を並べてしたしそうにあるいていきました。北風小僧は、『ちぇっ』といいました。思い切り舌打ちしたものですから、近くにあった青い屋根の風見鶏が、くるくるっとはげしく回転しました。それにおどろいたカラスが屋根からとび立ちました。北風小僧はすかさず、そのカラスの首にまたがってのっかりました。

 「らくちーん」
 カラスは、きょうの風は重くてとびにくいと思いながら、『うん、うん』うなってやっと1一本の木にとまることができました。それは、あのおばあさんの庭のねずみもちの木でした。

 北風小僧は、窓から家の中をのぞきこみました。中では、おばあさんが、背中を丸めてこたつにもぐりこみ、テレビを見ながら歯のない口をあけて笑っていました。おばあさんは、ひとりでもしあわせそうでした。

 北風小僧は、このおばあさんの小さな家のまわりでは、風を起こしませんでした。さっきのおいしかった焼きいものお礼をしたかったからでした。それから北風小僧は、仕事にとりかかりました。何の仕事ですかって ・・・ それはね、うーんと風を起こして、街に低くたれこめているスモッグのカーテンを引きはがすことなのです。


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