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シスター三木の創作童話

クマの村長さん

 “どしん、どしん。ざっく、ざっく”とゆっくりあるいている大きな足音がしてきました。 「おはよう、みなさん。おげんきですか」 と、森中にひびきわたるような大きな声。それは、動物村の村長、クマさんの声だったのです。 「あら、村長さん、いいところにきてくださいましたわ。夜露で、赤ちゃんのベッドがぬれてしまいましたの。いそいで新しいのととりかえたいのですけど、おねがいできますかしら」

 高い木の上から、カケスのお母さんが、村長さんに話しかけてきました。 「ああ、すぐにおとどけしましょう。カラスくん、サルさんのところへいって、ベッド用枯れ草一台ぶんをたのんできなさい」

クマと男の子

 カラスは、村長さんの秘書さんでした。いつも村長さんの肩に止まっていて、村長さんの用事を果たしていました。しばらくするとやわらかい枯れ草をかついだサルが、するするっとカケスの巣のある木をのぼっていくのが見えました。クマの村長さんは、こうして森の中を見まわりながら、動物たちが、おたがいにたすけあって、平和な暮らしができるようにと、いつも気をつかっているのでした。

 森の入口では、キツネが番をしています。動物村のガードマンといったところです。しかし、この平和な森では、別にこれといった大事件も起こらないので、キツネは、ふさふさとした尻尾を首に巻きつけて、よくいねむりをしていました。キツネと一組になってキツネの伝令役をするウサギは、その長い後ろ足で地面をたたいて、キツネを起こすのですが、いっこうにきき目がありませんでした。

 クマの村長さんとカラスは、この小さな森をひとまわりして安全をたしかめ、さてこれからお昼のお弁当を食べようとしていました。そこへ、空の見張り役をしているハトが、あわてたようすでかえってきました。

 「村長さん、村長さん、たいへんです。にんげんのこどもがひとり、この森の入口を通過しました」
 「なに、にんげん。で、キツネくんは・・・」
 「ええ、あの、それがいいにくいのです・・・」
 「ああ、またいねむりをしてたんだね。よろしい、とにかくいってみましょう」

クマの村長さんは、足音をしのばせて、森の入口へといそぎました。
 そこには、花束をもった小さな男の子が、よろよろしながらあるいていました。そしてばったり倒れるとそのまま、スヤスヤとねむりこんでしまったのです。

 「なんだ、にんげんというからびっくりしたけど、小さな男の子じゃないか。花をつんでいて道に迷ったんだな。かわいそうに疲れきってねむってしまったよ。しかしだな。この子は危険ではないが、この子を探しにくるにんげんのおとなたちがこわいぞ。きっと銃を持ってくるにちがいない。森のみなさんは、わたしが合図するまで、できるだけ、しずかにしていてください。この子は、わたしが見守ります」

 クマの村長さんは、小さな男の子のよこにねそべって、こどものからだをあたためてやりました。そして朝がきました。けれどだれもやってきません。

 クマの村長さんは、こどもにはち蜜をなめさせました。こどもは、はじめて見た大きなクマなのに、別にこわがるようすもなく、クマのひざに抱かれておしゃべりをしています。こどもとクマは、なかよしになりました。そして夕方。やっとにんげんたちが、こどもを探しに来たという知らせが、空からとどきました。

 「それじゃ、坊や、げんきでな。いまにお父さんが迎えにくるからね。おじさんは、もういくよ。ばい、ばい」
 クマの村長さんは、そういうと、あっというまに森の奥へと見えなくなりました。
 「クマちゃん、いかないで・・・」
 そのこどもの声で、
 「あ、いた。いた。ここにいる。おーい、こどもは、みっかったぞー」
 「おお、よかった、げんきじゃないか。奇跡的だ・・・」
 こどものお父さんは、男の子をしっかりと抱きしめました。

 「パパ、ぼく、クマちゃんとねたんだよ」
 クマと聞いて大人たちは、まっ青になりました。
 「ええっ、クマ! まさか。とにかく、暮れないうちにいそぎましょう」
 にんげんたちは、あわてて森を出ていきました。パパの背中の男の子は、大きな声で、
 「森のくまさん、ばい、ばい、またね」
 といっています。

 森の入口では、小さな青い光がチカッチカッといくつも光っています。それは、こどもが無事に帰っていく姿を見送る動物たちの目でした。  森の夜はしずかです。森のガードマン・キツネが青い目をひからせて、森の夜を見張っていました。


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