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祈りのひととき

平和へのマートンの祈り

“Merton's Prayer for Peace”
-1962年4月 聖週間の水曜日に、米国連邦議会にて-

全能で、あわれみ深い神よ、
すべての人びとの御父よ、
宇宙の創造主にして支配するかたよ、
深遠なご計画をおもちの歴史の主よ、
あなたの栄光には傷がありません。
人間の過ちへのあなたのあわれみには限りがありません。
あなたのみ旨の中には平和があります。
暴動と絶望の世からあなたのみもとへのぼってゆくこの祈りを、
あわれみ深く聞きとどけてください。

この世ではあなたは忘れられています。
あなたのみ名は唱えられていません。
あなたの法はあざけられています。
あなたの現存は無視されています。
なぜなら、わたしたちは、あなたを知らないからです。
わたしたちには平和がないからです。

永遠の沈黙の深みから、
あなたは、いろいろな帝国の勃興をご覧になってきました。
そしてその帝国の没落の硝煙をもご覧になってきました。
あなたは、エジプト、アッシリア、バビロン、ギリシャ、ローマが、
かつて強大な権力をもったにもかかわらず、
風の中の砂のように飛ばされていったのをご覧になってきました。

あなたは、一万もの兄弟殺しの戦争という、不敬な狂暴を目撃なさいました。
そこでは、大きな権力が平和と正義の名によって、
全大陸を粉々にしてしまいました。

いまや、わたしたちの国は、戦争の切迫した危険の中にあります。
このようなことはいままで見たこともありません!
この国は、権力ではなく、自由にささげられています。
自由によって、この国は望まなかった権力を手に入れてしまいました。
そしてこの権力によって、この国の自由を守ることを求めています。
この国は、権力の命令と政策によって奴隷になっています。

わたしたちは、望まない戦争を、
わたしたちのためにはならない戦争を、
しなければならないのでしょうか。
そして、戦争を憎むことが、戦争を準備させているのでしょうか?

最期の日がいまやこの自由な国の人にもわかりはじめました。
巨大な兵器で武装して、わたしたち自身の正義を確信しています。
わたしたちと同じように自分が正しいと確信し、
兵器で武装した、強力な相手国と、わたしたちは直面しています。
この運命の瞬間に、
けっして予知しなかったこの運命の瞬間に、
わたしたちは、失敗することはできません。

戦争か平和かをわたしたちが選択するのは、
わたしたちの判断であり、それは永遠に記録されるでしょう。
このいのちにかかわる選択の瞬間に、
忍耐の必要な平和の建設をはじめるでしょう。
またわたしたちは、カオスの縁を横切って、
最後の手段をこうじるかもしれません。

そのときわたしたちのうちにある強迫観念を取り除いてください!
わたしたちの目を開いてください、
混乱を追いはらってください、
わたしたち自身と相手国を理解することを教えてください!

愛に反する罪のゆえに、
信仰をなくしてしまったことを忘れさせないでください。
そして、信仰のない人びとが、
自分たちの目的を達成するために犯罪を犯すことがないようにしてください。

わたしたちが兵器に支配されるのではなく、
兵器を支配する者となるよう、助けてください。
わたしたちの科学が戦争と破壊のためではなく、
平和と豊かさのために使われるように助けてください。
わたしたちの子孫を破壊するのではなく、
子孫を祝福するために、原子力をどう使ったらよいか、示してください。

わたしたちがもっとも憎んでいる敵にしたがわなくてもよいように救ってください。
敵のわたしたちへの憎しみと疑いが強くならないように救ってください。
わたしたちの内的な自己矛盾を解決してください。
この自己矛盾は、いまや信念と忍耐の限度を越えています。
自己矛盾は、苦しみであり祝福でもあります。
なぜなら、もしあなたが良心の光をわたしたちに与えてくださらなかったら、
わたしたちは自己矛盾を忍耐する必要はなかったでしょうから。

苦悩と不安の中で長く耐えることを教えてください。
待ち、そして信頼することを教えてください。
平和のために働くすべての人に光を与えてください。
力と忍耐を与えてください。
この連邦議会に、
わたしたちの大統領に、
わたしたちの軍隊に、
そしてわたしたちの相手国に力と忍耐を与えてください。

わたしたちの力にふさわしい賢明さを与えてください。
わたしたちの科学にふさわしい知恵を与えてください。
わたしたちの富と力にふさわしい人間らしさを与えてください。
そしてすべての人種とすべての国の人びとが、
わたしたちとの友情の中で、正義、自由、
そして永遠の平和の道を旅することができるよう助ける誠実な気持ちを、
祝福してください。
とりわけ、わたしたちの道がかならずしもあなたの道ではないことを、
わからせてください。

しかし、あなたのご計画の神秘を知りつくせないこともわからせてください。
この地上にいま荒れ狂う権力の嵐が、
あなたの隠れたみ旨とあなたの深遠なご決定であることを、わからせてください。

この宇宙の嵐の稲妻の中に、あなたのみ顔を見せてください。
おお、聖である神よ、
人びとにあわれみ深い神よ、
平和が真に見つかるところで平和を捜すことができますように!
おお神よ、あなたのみ旨の中に、わたしたちの平和があります!
アーメン。


『平和への情熱 ~トマス・マートンの平和論~』
   トーマス・マートン 著
   木鎌安雄 訳
   女子パウロ会発行


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