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「時」の歩み

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九月十一日

「あけぼの」2005年12月号より) 新谷のり子


他人事ではすまされない米国のあり様

2001年9月11日の「米国同時多発テロ」以降、世界が変わりました。

「『これが米国だなんて信じられない』。大型ハリケーン『カトリーナ』がもたらした洪水の惨状に、だれもがこう繰り返した。お年寄りや貧しい人々、そして黒人たちが、お金がなくて地獄から脱出する切符を買えず、置き去りにされた。記者たちは、現代都市の市民である彼らを、ボスニアかソマリアの難民のように『避難民』と報じた。この日曜日、米国は同時多発テロから4年目の9.11を迎える。国際テロ組織アルカイダが飛行機でビルに突っ込み、無辜(むこ)の市民を殺害したとき、私たちは米国のもろさに息をのんだ。

そして今年、カトリーナが現れ、邪悪な敵にではなく、無能な保護者にはっとさせられた。被災者たちが何日も屋根の上で立ち往生し、スポーツスタジアムに見捨てられ、病院にいて保護されず、あるいは老人ホームでおぼれたことに対し、国への不信を募らせているのだ。連邦緊急事態管理局は、120人の船員と600床の医療用ベッドを乗せた船があるのに、メキシコ湾にぶらぶら停泊させ時間を無駄にした。ブッシュ大統領は、『ロット上院議員は、がれきから素晴らしい新居を再建するだろう。楽しみだ』などと話し、ピント外れの楽観論をさらけ出した。

ホワイトハウスはいつ海岸の浸食に対する地球規模の警告を忘れたのか。いつ貧困層が増え続け、政府が医療基金を削減し、社会保障を『改革』するよう仕向けたのか。いつイラク戦争や債務で首が回らなくなり、富裕層の遺産税を廃止しようとしているのか。カトリーナという鏡を通し、自分たちが考えていた米国像がブッシュ政権の手で変えられてきたことに、より多くの国民が気づき始めた。

ブッシュ大統領は、再選へ向けたキャンペーンで、9.11とイラク戦争とを結びつけようとして、『私には、国民を保護する厳粛な義務がある』と述べた。だがイラクでは、その義務の核心が揺らぎ始め、ハリケーン災害では挫折した。今、国民は共感と怒り、寛容と失望を胸に抱きながら、長く不確実な復興に取り組み始めている。カトリーナの犠牲者のため、そして米国への信頼を取り戻すために。」

エレン・グッドマンさん(ワシントン・ポスト、コラムニスト)の毎日新聞(9月10日付)に掲載されていたコラムです。

自然の猛威に襲われたことによって、米国社会が抱えている矛盾やもろさが露呈されました。ハリケーンの直撃を受けた被災地ルイジアナ州では、現在、州兵3,000人が戦地イラクに派兵されていること。被災者救援の対応の大幅な遅れと州政府、市当局の無力。それに乗じて起こったスーパーや商店等への略奪行為。治安維持のためなのかテレビニユースの画面から聞こえてくる発砲音。数千人の黒人被災者が水や食料を求めて叫んでいる姿。「昨年末のインド洋大津波やバングラデシュには直ぐに救済支援を行った。どこかの紛争にもすぐ軍隊を出す。どうして私たちを置き去りにするのか」幼い子どもが口にできるものと着替えがほしい、と、涙ながらにインタビューに答える黒人女性。「底には、レイシズム(人種主義)がある」と、唇をかみしめていました。

「この超大国が、ハリケーン一つにかくまで翻弄されることに驚く」と、新聞紙上で西川恵さん(毎日新聞専門編集委員)は記しています。米国の出来事が何を物語るのかを、「一つは公共性の崩壊。二つめに米国の歴代政権が進めてきた『小さな政府』路線が大規模な自然災害に十分に対応できない現実である。公共性の崩壊と政府の役割の縮小は決して無関係のものではない」と。

競争社会の中で、開発の名のもとに環境破壊を進行させ、京都議定書に顔をそむけ、自然との共生を忘れたかに見える米国。テロとの戦争の名のもとに、治安対策を優先させ、高齢者、女性、障害者、少数民族、移住労働者など、社会的弱者に対する愛を忘れたかに見える米国。貧富の差が拡大し続ける米国。米国の今日のあり様は他人事では済まされない思いでいっぱいです。


押し流される国民気質

戦後60年、9月11日の総選挙で日本国民が下した判断結果は、米国に追随し、「小さな政府」を標榜(ひょうぼう)する「小泉自民党」に未曾有(みぞう)の勝利をもたらしました。だれのための改革か? 改革の中身は? の疑念を抱く余地さえ与えないほど単純化された小泉首相の問いかけ、「郵政民営化は改革の本丸。イエスかノーか」に、多くの人々はファナティック(熱狂的)に「イエス」と答えました。そこには、報道機関を通して創出された「盛り上がる雰囲気」に押し流される国民気質がありました。

「小泉自民党」294議席に、郵政以外の政策も白紙委任された……、小泉首相はそう考えるかもしれません。改選前も改革に熱意があまり感じられなかった年金問題。イラク特措法・テロ特措法の期限延長。教育基本法。靖国問題。メディア規制。自民党94パーセント(新議員84パーセント)、民主党69パーセント(前原新代表「改正は必要、9条2項は削除し自衛権を明記したい」)、公明党79パーセントが改憲すべきとし、国民投票法案を審議するための新たな『憲法調査委員会」を設置することを決めた憲法問題等々。

私たちの日々の営み、人生、生命までにも影響をおよぼす重要な事柄が、小泉首相の意思主導による決定の確率が高くなるとしたら。「わかりやすくて、頼もしい」という声と、「何だか恐い」とい声が周辺から聞こえてくるでしょう。だけど、「何だか恐い」は消されていくかもしれません。

「よほど勇気を持たないと、声も上げることはできません。しかし、その勇気はどこから出てくるのでしょう。何を拠り所とするのでしょうか。やはり私は、神の存在なしにはなし得なかったと思います。彼らの信仰とその生き方こそ、私たちにも勇気を与えてくれるものなのです。日本も同じ時期、軍国主義の下で侵略戦争を推し進めていたわけですが、白バラに比した勇気ある人々を探し出すのは困難です。先の大戦は、私たちの社会と国民性に常に反省を迫る材料です」。

ドイツでナチス体制への抵抗運動に身をささげた医学生ハンス・ショル、妹ソフィー・ショル(「白バラ通信」と題された印刷物を投函し、逮捕され処刑された)の「白バラのショル兄妹」について語った三浦仁牧師の言葉です。


著者紹介:
新谷のり子(しんたに のりこ)
「フランシーヌの場合」でデビュー。「人権学習」の講師ほか独自のコンサートで活躍中。著書『フランシーヌはたち』、アルバム「祈り」「うたたち」ほか。

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