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感動することありますか?

「あけぼの」2006年4月号より) 弘田鎮枝


クリスチャン・ピースメーカーの人たち

昨年11月26日、イラクで4人の欧米人男性が拉致されました。英国人74歳、米国人54歳、カナダ人41歳と32歳の彼rは、いずれも「クリスチヤン・ピースメーカー・チーム」のメンバーで、「神の剣」と名乗るグループにより、「連合軍」に逮捕拘留されているすべてのイラク人の釈放を交換条件として拉致されたのです。要求に応じられない場合は、12月10日までに人質を殺害するという連絡を最後に、数週間が過ぎましたが、4人の安否は不明のままです。

このグループは、軍隊が暴力で解決しようとする紛争のある場所に、非暴力で「平和を築く人…ピースメーカー」を派遣することを目的として、1984年米国で設立されたキリスト教組織です。「負傷、死の危険を冒しても、戦争の暴力を神の真理と愛の非暴力の力により、変貌させる」ために、相手国の平和人権組織からの招きがあれば、世界のどこにでも出かけてゆきます。創立宣言は、「平和の福音は、非暴力の直接行動を含む新しい表現によって、私たちが証人となることを促しています」と述べています。

米国人トム・フォックス(54)が拉致される前日に記した言葉。「なぜ私たちはここにいるのか? 神が人間一人ひとりを愛するように、私たちも心を尽くし、力を尽くして隣人と敵を愛するならば、だれであれ相手を非人間化することを許してはならない。私たちは、抑圧者に痛めつけられる人々の側に立ち、人間の中にあるすべての暴力の根を絶ち切るためにここにとどまる」。カナダ人ジム・ローニー(39)は、イラク行きに強く反対した父親との電話の会話について書いています。

「『ジェイムス、元気かい? 何を食べているのかね。良く気をつけるんだよ』。電話を切ってから、私は目を閉じた。父が海を越えて手を伸ばし、戻ってきておくれと嘆願している姿が浮かんだ。同時に昨日ここで出会った一人の盲目の父親の姿も浮かんだ。『お願いです。刑務所に入っている息子を取り戻してください』。やりきれない悲しみ、そしてつぎの瞬間言い知れぬ力を感じた。私には、果たさなければならない使命がある」

昨年7月来日されたこの「クリスチャン・ピースメーカー」のメンバーである聖心会のシスターにお目にかかったことを思い出します。70代後半の高齢をものともせず、外国人とくに米国人は、確実に標的になることを十分理解しながら、ファルージャの病院で死を待つ人たちに薬を届けたことを、淡々と話してくださいました。「出発するときは、いつも遺書を準備してゆきます」

こういう純粋というか、ラディカルな信仰の生き方に出会うと、好い加減な自分はおろおろし、とても真似できないと思うのですが、同時に、これほどの確信と決意をもって行動できる人間が、この地球に存在することに感動します。


ウシャさんの坊主頭

昨年12月「やより賞」受賞のために来日したネパールのフォトジャーナリストのウシャさん(注)の坊主頭も、人間と地球へのこのようなラディカルな献身を語っていました。

高いカーストの身分を捨て、文字通り「枕するところもない」日常生活をおくり、ネパールが民主化され、すべての人間が人間らしく生きられる社会になるまで頭を剃り上げているのです。西欧の社会ならいざ知らず、ヒンズー教文化の社会で、女性が坊主頭でいることは、強烈なメッセージであるのは確かです。その彼女に出会った私たちにとっても、生き方そのもで自分の確信と決意を伝える深い自由は、灰色の現実に、ぱっと現れた光のように爽やかで喜ばしいものでした。


オスカル・トレスの決断

「イノセント・ボイス」という映画の試写会に行ってきました。中米エルサルバドルの内戦において「子ども兵士」として徴兵され、銃を持たされた過去を持つ当事者の実話です。心の奥にしまいこんでいたトラウマを語る決意をした理由は、世界に30万人いると言われる「子ども兵士」の残虐な事実を多くの人が知り、人を殺さなければならない「使命」をおしつけられている子どもを世の中からなくすため、と来日したオスカル・トレスがインタビューで語っていました。

映画の中にこのような場面があります。ついに銃を手にとり撃とうとした相手の顔を見たときに、自分と同じような少年であることに気づく。彼はそのまま銃を投げ出し、ジャングルの中を走り出します。人間はだれも同じ人間であり、一人ひとりが生きる権利を持っていることが、信念として存在の奥底にしっかりとあるときに行動も変わってくるのです。


希望につながる感動

たとえ真似はできなくても、感動を与える人間の生き様があるかぎり、その言行一致のすばらしさに感動する人間がいるかぎり、地球の未来には希望があると思っています。不可能とだれもが思うことを行動として実現する人間が、いつの時代にもいて、その情熱に感動する人々の心を揺り動かし、世界を変えてゆくのです。たとえメディアに取り上げられなくても、自分だけの安楽を求めることなく、他者を仲間として大切にすることにいのちを賭けている人たちが、そこここにいます。

行方不明のクリスチャン・ピースメーカーの4人について、一人の仲間がこのように言っています。「もしかしたら、彼らは拉致した相手に自分たちが何者であるかを熱心に伝え、いまごろは友達になっているんじゃないかな」

そうであることを祈りたい気持です。

このごろ感動したことありますか?

(注)「あけぼの」3月号30ページ~「未来創造」のインタビュー記事を参照ください。


著者紹介:
弘田 鎮枝(ひろた しずえ)
ベリス・メルセス宣教修道女会修道女

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