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“小泉政治”の終幕

「あけぼの」2006年9月号より) 酒井新二


北朝鮮の危険なかけ

7月5日早朝、北朝鮮は突然、連続7発のミサイル実験を行い、日・韓・中・米・ロ各国はもとより世界中を驚愕させた。北朝鮮のミサイル打ち上げは6月ごろから兆候があったが、一時はその実行が疑われていた。しかし韓国に亡命した北朝鮮の元高官が終始指摘していたとおり、それは実行された。

このミサイル発射のねらいはいろいろいわれているが、米・日両国の関心がイラクなど中東に集中し、“北朝鮮問題”については特に米の強硬姿勢が目立ち、マカオの銀行に裁判をかけ、北朝鮮の資金を凍結させたことが大きいとされている。北朝鮮は食糧不足など深刻な経済難の中で核兵器と弾道ミサイル開発に巨額の資金を投じてきた。北朝鮮としては米に対して軍事的脅威しか交渉カードが残っていない状況になっていたことが、こんどの背景にある。ある意味では追い詰められた北朝鮮の“瀬戸際外交”の現れだと見ることもできる。しかも 金正日体制の中で、急速に発言権を強めている軍部の強硬姿勢が大きな役割を果たしていると指摘するむきもある。

しかし北朝鮮をここまで追い詰めることが果たして賢明であろうか。現に韓国、中国、ロシアは北朝鮮の行動に、とまどいと反対の意向を示しつつも、国連が北朝鮮に対して強い制裁を行うことには反対の姿勢を明確にしている。日本は外交的に常に安易に米に同調し依存している。このような主体性のない外交は、日本をアジア諸国から浮いたものにするだけである。

北朝鮮内部では軍の発言力が強まっているといわれている。日本の過去の歴史を見れば、軍の発言力が増大したときは極めて危険な状態であることを知らねばならない。日本は韓・中両国と緊密に連携して北朝鮮に対処しなければならない。それにもかかわらず、小泉首相の対韓・中外交の失敗がここへきて大きなマイナスを露呈することとなった。


米軍再編の「最終報告」

在日米軍の“再編協議”が5月1日の「日米安全保障協議会」(いわゆる2プラス2)で「最終報告」を合意、日米関係が「新たな段階に入る」と宣言された。その意味は表面的には「在沖縄米海兵隊約8,000人のグアム移転や嘉手納基地から南の米軍施設の返還、普天間飛行場のキャンプシュワブ沿岸部(名護市)への移設」などによって沖縄の基地負担を軽減するというものである。しかしこの“米軍再編”の実態は、日本の安全保障政策の重大な転換を意味するものである。

小泉内閣はブッシュ政権のイラク戦略への積極的協力を契機に「日米安全保障条約」の“極東”の枠を越えてイラクやインド洋への自衛隊派遣を強行することによって“世界規模の日米提携”に踏み込んだ。これは明らかに日本国憲法の枠を超えるものであり、憲法第9条違反をさらに露呈するものである。政府は周辺事態法(平成11年5月)、武力攻撃事態法(平成15年6月)、イラク復興支援特別措置法(平成15年8月)などいわゆる有事立法を次々と成立させて国民の眼から、それらの“違憲性”を覆い隠してきた。この「最終報告」はそれをさらに進めて、世界規模での日米の軍事提携を明示し、“憲法改正”まで先取りしたものというべきだろう。

共同通信よれば、それは次のような形で実現するといわれる。

まず自衛隊と在日米軍の司令部機能の統合である。米陸軍や第一軍団司令部がキャンプ座間へ移転し、陸自の中央即応集団司令部が発足する。空自航空総体司令部が横田基地に移り、日米共同統合運用調整所を設置し、ミサイル防衛態勢を強化する。これは実質的に自衛隊が米軍の世界戦略の一翼を担うことであり、まさに日米軍部の“一体化”であり、「日米安保」の”極東条項”からの逸脱である。

しかも米側は普天間飛行場移設の経費と沖縄米軍のグアム移転に伴う経費の合計260億ドル(約2兆9,800億円)を要求している。安部官房長官は「とんでもない金額」とはいったが、最終的にそれを米側に断ったかどうかは不明である。このように日米軍部の一体化は着々と進んでおり、しかもそれは対等の協力ではなく、自衛隊が米軍の指揮下に入ることを意味する。このような日米の軍事的一体化は日本の国会でほとんど論議されたことはない。与野党を含めて日米の軍事協力をタブー視しているといわれても仕方がないであろう。


「2007年問題」とは

「2007年問題」という言葉がある本来は団魂の世代の定年退職がピークを迎え、技術やノウハウの継承が十分行われないこと、労働力の空洞的などで社会的、経済的ダメージが懸念されるという意味だという。これにちなんで中曽根元首相が恒例の誕生パーティのあいさつで「政治の2007年問題」に触れた。

戦後政治に大きな変化をもたらしたものは
  ①非核三原則
  ②総評の崩壊
  ③小選挙区制の導入
の3つである。非核3原則は国是として守っていかねばならないが、国際情勢の変化が加速され、それにどう対処するか政治が考えねばならないときにきている」と指摘した。“核”問題に触れた微妙な発言であった。

また「小選挙区制」にも触れ「劇場型選挙になることによって、党内論議が軽視され、大衆民主主義、大衆迎合主義に陥る危険性がある」と暗に小泉政治の“ポピュリズム”(大衆迎合政治)を批判した。

小沢一郎民主党の出現で来年の参院選は自民、民主両党の決戦場となり、自民敗北の可能性も出てきた。内政の季節に入ろうとしている日本政界だが、朝鮮半島の緊張はそれを許さないかもしれない。早くも国連安保理では北朝鮮に制裁を求めた日本の決議案に中・ロ両国が反対を表明するなど小泉政権は最終段階で大きな波乱を迎えている。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

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