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名古屋高裁判決の意義

「あけぼの」2008年7月号より)酒井新二


名古屋高裁は4月17日の控訴審判決のなかで、航空自衛隊のイラクの首都バグダッドへの多国籍軍空輸を「憲法9条1項の違反」とする画期的な判断を示した。

 

国民を愚弄する発言

ゲリラ活動や自爆テロが頻発するバグダッドだが航空自衛隊の輸送機が離着陸する「バグダッド空港は非戦闘地域」だとする従来の政府の見解が実質的に否定されたことになる。

自衛隊のバグダッド派遣を断行した小泉純一郎元首相は「どこが非戦闘地域で、どこが戦闘地域なのか、私に聞かれてもわかるわけがない」(2003年7月)とか、「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」(2004年11月)などと国民を愚弄するような答弁をくり返していた。名古屋高裁の判決は、そのような従来の政府の主張を真正面から否定したものである。福田首相は「それは、“傍論”ですね」と、あえて「名古屋高裁判決」を無視する態度をとってみせた。“傍論”とは判決の主文ではなく、ほかの裁判への拘束力を持たぬ部分を指す。

こんどの裁判は原告が「イラクへの自衛隊派遣の差し止めを求めた」ことが中心であり、判決はそれを認めなかったので、政府は「勝訴」としており、最高裁への上告はできないため、これで裁判は終了したことになる。しかし“傍論”とはいえ、司法によって自衛隊のイラク派遣が明確に憲法9条1項違反と断定された意義は大きい。イラクの現状は単なる治安問題などではなく、戦争状態そのものである。小泉・安倍・福田の三代にわたる自民党政権はあえて現実から眼をそらし続けてきた。こんどの判決は、そのイラク戦協力が明確に否定され、その根拠が「憲法9条」であることを明らかにしいたことを国民は、あらためて深く考えなければならない。

 

「イラク特措法」にも違反

判決は自衛隊の空輸活動は「イラク特措法」にも違反すると明確に述べた。「空自」(航空自衛隊以下同じ)の輸送機がこれまで攻撃を受けなかったのはむしろ幸運というべきであり、米軍機は、被弾したこともあったという。また判決は多国籍軍の武装兵員を空輸するのは「他国による、武力行使と一体化した行為であり、自衛隊も武力を使ったと見られても仕方ない」としている。「イラク特措法」は来年7月に期限切れとなる。

自民党は自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法を作ることを検討しているという。このような違憲立法の動きはまさにこんどの名古屋高裁判決に対する挑戦であり、憲法無視の態度をますます露骨にするものというべきである。

 

実質的に政府の敗訴

いままで憲法9条に関する裁判では1973年の「長沼ナイキ訴訟」札幌地裁判決で自衛隊が違憲とされた。また1959年の砂川事件一審では、米軍駐留が違憲とされた。しかし司法はその後“高度に政治的な問題”についてはあえて判断を避けてきた。いわゆる“統治行為論”といわれるものである。しかしこれは司法の行政に対する敗北を意味するといわれても仕方ない。

こんどの名古屋高裁判決は“傍論”ではっても、あえて政治的問題にふみこんで司法の見解を示したことは画期的なことであるといわなければならない。なぜならこの判決は実施的には、原告側の勝訴であり、政府側の敗訴だからである。

福田首相は前記のように「“傍論”だから大勢に影響ない」との態度を示したが、そのようなどうでもいいような軽い判決ではない。少なくとも司法が行政につきつけた鋭い異論に対して行政はまともに答える義務がある。そうでかければ高度の民主政治が行われているとはいえない。国会論議で野党の質疑に適当に応じているのとは意味が違う。日本の民主政治の基本を問われている問題であることを総理も認識する必要がある。

またこの判決が「空自」の輸送対象を「武装兵員」と、はじめて具体的に認定したことも重要である。政府はこれまで「空自」の具体的な輸送人員、物資の内容を明らかにしなかった。

政府は従来「空自による物資の輸送はしているが、どんな活動をしているかは部隊の安全上公表できない」としてきた。しかしこの判決のなかで、輸送の内容は米軍を中心とする多国籍軍が含まれていることが明らかにされたことは重要である。

当初の「人道復興支援」から「米軍支援」に変質したのではないかとの疑念が裏付けられたことになる。

 

アメリカの誤認

そもそも米国のイラク進攻はフセインのイラクが核兵器をもっているとの認識から始まった。フセインの独裁政治は打破されたが、核兵器の存在は結局米国の誤認であったことも明らかになった。日本はこのような米国の誤認に基づく軍事行動に自衛隊を動員したことになる。政府はこのことを国民に対して正直に説明していないし、野党も深く追及しなかった。フセインの独裁政治に対する非難によってすべてが正当化されてきたといわなければならない。

 

マスコミの態度

日本政府の防衛省当局の国民に対する秘密主義は許されてはならない。

名古屋高裁による「空自」のイラク活動違憲判決に対して、日本の主要マスコミの態度は賛否が二分している。

「派遣継続、国益に直結」などと大見出しをつけ、名古屋高裁判決に正面から異を申し立てた新聞もある。

毎度のことながら、重要な憲法問題について現在の主要メディアの主張は対立している。われわれは、この日本のマスメディアの論調を冷静にとらえて正しく判断する必要がある。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

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