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解散・総選挙に向けて

「あけぼの」2008年11月号より)酒井新二


福田首相の政権投げだし

福田首相の突然の辞意表明で、政界はいよいよ解散・総選挙へ向けて走り出した。しかし安倍・福田政権が、1、2年のうちに相ついで崩壊したということは、戦後政治の中でもはじめての珍事であり、自民党政治の行き詰まりが限度にきていることを示したものといっていい。福田首相が政権を投げ出した最大の理由は、20%前後まで下がった国民支持率の極度の低さであり、その意味では首相の辞意は当然の結果であった。しかし福田首相の政権放棄のやり方は、国民の眼にはまことに投げやり、無責任とうつった。

安倍首相に続く“敵前逃亡”ともいうべき姿は、惨めというほかない。唯一の救いはこのような政治の態度を比較的冷静に見ている国民の眼、世論の存在であろう。安倍内閣も福田内閣もその発足当初こそ50%以上の支持率を示したものの、やがてズルズルと下がって20%前後に低迷したことは政治に対する“国民の眼”の厳しさを示すものといえる。しかしこのような政治のあり方に対する国民の失望が、民主主義そのものへの不信へ転化することをおそれる。

第2次大戦前のドイツのように“民主主義”に対する失望、不信がやがて“ヒトラーのナチズム”を生んだ歴史の教訓を決して忘れてはならない。

 

公明党の福田つぶし

もうひとつ注目しなければならないのは公明党の態度である。福田首相に引導をわたしたのは、公明党だということができる。公明党はここへきて福田首相と距離をおいてきた。公明党の現在の最大の関心事は、来年夏の東京都議選挙であり、それに全力をあげるために、その前に総選挙を終わらせたいというのが本音である。

ところが福田首相にとっては昨年から大きくもめてきた「新テロ対策特別措置法」の延長──インド洋上での米艦船に対する自衛艦による給油活動の継続──がより重要であった。しかし野党が多数を占める参院では、同法案が否決されるのは間違いない。それを乗り越えるにはもう一度衆院で、2/3の多数で再可決するしかない。それには同法案が参院を通過してから60日が必要とされている。(注)

「新テロ対策特措法」の期限切れは来年1月15日だから、今年9月上旬には、同法延長法案の審議を始めないと間に合わない。

 

次は“選管内閣”

公明党が同法案の9月下旬審議開始を主張したのは、同法の延長に消極的な創価学会の意向を反映したものとされている。自民党の連立相手である公明党が、ここへきて福田首相に対する協力を変化させていたのは、このような事情からである。このような福田首相と公明党との関係の悪化こそが、福田政権の命運に大きく響いた。

福田首相は9月2日の“辞意表明”の記者会見で記者の質問に対して、「自分のことは客観的に冷静にわかるのです。君とは違います!」などと興奮気味に答弁した。“冷静”という言葉とは少し違い雰囲気だった。福田首相の無感動を装った表情の裏で、無念の気持ちをのぞかせた瞬間だった。総理就任時の記者会見で「貧乏くじかもしれませんよ」と、せいいっぱいのユーモアのつもりで漏らした言葉が、そのとおりになったわけである。

福田首相はこの会見でも、公明党のことには一言もふれなかったが、福田首相にとって公明党の福田離れが、福田辞任の裏の理由であり、福田首相にとって最近の公明党は“獅子身中の虫”であった。

福田首相の辞意表明によって次期内閣は“選挙管理内閣”となる公算が大である。

 

政権たらい回しはやめよ

自民党総裁選は麻生太郎、与謝野馨、小池百合子、石原伸晃、石破茂の5氏が立候補した。本稿執筆の段階では、麻生氏が統一候補になることは間違いないが、いまの自民党は政治的に非力な福田康夫氏を総裁総理に選ばざるを得なかったほど、地力に欠けており、かつてのすぶとい保守党の姿はもはや存在しない。

そもそも半世紀以上も一党が政権を担ってきたということが、異常なのである。

国際的にもこのような一党長期政権体制、近代的民主国家には存在しない。自民党は“政権たらい回し”はやめて、野党第一党に政権を譲り、選挙管理内閣によって衆院を解散し、総選挙で民意を問うべきである。そうでなければ日本の民主政治は健全に育っていかないだろう。民主党も自民党まがいの党内抗争はやめ、近代的政党として、非自民党の明確な政策を掲げ、それによって政権を担う意欲と体制を国民に示す責任があるだろう。

国民も日本の真の近代化に向けて、経済的繁栄を期待するだけでなく、政治の近代化を実現するために全力を集中すべきである。

注:
憲法第59条第4項(法律案の議決・衆議院の優越)
④参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

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