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日本政治の異常続く –––米国経済に大激震

「あけぼの」2008年12月号より)酒井新二


日本の戦後政治史に“一年総理”の続出という汚名を残した安倍晋三・福田康夫両首相のあとを継いで麻生太郎総理が登場した。しかし彼は最後の自民党総理になるかもしれない。

麻生氏はこのような自らの命運に抗するかのように就任直後ニューヨークに飛び、国連総会の演説を行うという“0泊3日”の強行日程をこなした。自民党の総裁選挙に4度挑戦してようやくかちとった“総理”の座を誇示するかのような行動は、麻生氏の個人的意気ごみを示すものではあろうが、同時にその“あせり”を印象づけるものでもある。

 

悲壮な麻生氏の立場

次の衆院選挙では自民党の敗北は既定のことと見られており、麻生氏がそれをどのていどにくい止めるかが、その政治生命を決定づけるといっていい。しかし政治の流れはすでに自民党から離れており、麻生氏はいわばこの歴史的潮流に抗するものとして、むしろ悲壮感をただよわすものである。皮肉にも小泉純一郎氏がのし上がった“自民党をぶっ壊す”というキャッチフレーズの“ボディブロー”が徐々に効いてきているときに“自民党を再生する”ということは至難の業である。麻生氏がこのことをどのていど意識しているかはわからないが、麻生氏の発言には“再生の哲学”はまだ何も示されない。小泉氏も“破壊”のあとの“復活”の道を示すことはなかった。もし自民党に“再生”があるとすれば、長年の権力の座から離れて反省と回復の地道な努力に耐え“新生の哲学”をねり直すしかないだろう。

麻生氏は民主党の小沢一郎代表との「党首力対決」にかけたが、それは大きな流れを止めるものではなかった。

 

欠落する弱者への視点

自民党と民主党との政治的・政策的立場の違いは上流社会層と中流層とのいずれを中心にすえるかにあるが、そこには社会的弱者への視点も政策も欠落している。本来なら公明党がその欠を補うべきなのに、今の公明党は権力への依存と、それによる自ら(=創価学会)の勢力維持に汲々とするばかりである。長年の“権力生活”が本来の“革新性”をほとんど喪失させてしまった。公明党が福田康夫氏の代わりに麻生氏を選んだのも「選挙に勝てる首相」という視点だけだったといっていい。麻生氏の首相就任後の発言もすべて総選挙向けのものであり、施政演説も自らの基本政策の表明というより、小沢民主党に対する“質疑”と“攻撃”に終始するという異常なものだった。

小沢氏はこの麻生質問を逆手にとって、自らの「政権公約」として「新しい生活をつくる5つの約束」を表明し、早期解散を求めた。その内容は「ガソリン暫定税率を来年度から廃止。11年度までに高速道路を無料化。12年度までに農家への戸別所得補償制度などを実施。20.5兆円の財源は補助金・特別会計の廃止など」というものだった。

 

金融安定化法案の否決

世界は9月29日ニューヨーク株の大暴落という経済的大激震に見舞われた。ところが米議会下院は9月29日、最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金で金融機関の不良債資産券を買い取ることを主な目的とした金融安定化法案を否決してしまった。

この米国経済の事態は世界的経済にとって、あの昭和初期の“大恐慌”にも匹敵する大衝撃であった。当時に比べればはるかに協力な安定力をもつ世界経済ではあるが、それでもこの米国金融界の大地震はヨーロッパ・アジアをはじめ全世界に深刻な打撃を与えた。これは米国を中心とした金融大戦争が発生したようなものであり、資本主義体制の根本的脆弱(ぜいじゃく)性を露呈するものであった。

一般民衆を無視して“マネーゲーム”に没頭する米金融機関の失敗を米国民の税金で救済しようとすることに対して、一般の米国民が強く反発し、各地で反対デモまで起こった。米国では11月には下院の選挙が行われることになっており、民主・共和両党議員の多くが、このような米国民の心情に応ぜざるを得なかったということであろう。

 

“昭和恐慌”の記憶

日本は1929年(昭和4年)のニューヨーク市場の株価大暴落から始まった世界経済の大混乱に巻き込まれた。これがいわゆる「昭和恐慌」である。日本は有名銀行や企業が倒産し、庶民の生活が破壊された。このような日本の初期資本主義時代における経済的・社会的大混乱がやがて軍部の政党政治不信につながり、5.1事件、2.26事件という軍部のクーデター事件に発展していったのである。

このような日本の資本主義社会の負の面をわれわれは忘れてはならない。今回の米国の経済危機は「大恐慌」一歩手前でふみとどまった。しかし米国経済と密接に結びついている日本経済は米国経済の混乱が長びけば、その影響を徐々に受けざるを得ない。今回の危機はなんとか乗り越えても、もし第2波、第3波と世界経済の荒波が押し寄せた場合、「日本丸」が果たしてそれを乗り切ることができるかその保証はない。

 

米経済の綱渡り

日銀が10月1日発表した企業の「短期経済観測調査」(短観)によると、日本の大企業・製造業は「マイナス3」と、6月の前回調査の「プラス5」から大幅に悪化した。昨年夏からじわじわと広がってきた金融不安が企業の景況感の悪化に拍車をかけているとみられている。

米国上院は下院で否決された金融救済法案に銀行預金の保証上限を引き上げる条項を盛り込んで採決した。これで預金者らの不安を和らげることができるか、米国経済の綱渡りは続いている。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

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