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“グローバル資本主義”崩壊論

「あけぼの」2009年7月号より) 酒井新二


戦後日本は非軍事国家として世界でも特殊な性格を持つ国家とされている。しかしこの“非軍事国家”も保安隊----自衛隊、防衛庁----防衛省への転換によって急速に“普通の国”に変貌しつつある。

経済面では戦後の米国による対日援助を経て独立とともに、米国式資本主義国家へ向かって発展を進めてきた。戦後日本の経済発展は目覚ましく、世界一の経済大国アメリカに追いつき追い越すといわれた。しかしこの目覚ましい経済発展もいま多くの問題を内蔵することが明らかになってきた。

中谷巌元一橋大学教授の『資本主義はなぜ自壊したのか---「日本」再生への提言』という著書において中谷氏は、“グローバル資本主義”の本質的問題を分析し、「改革なくして成長なし」というかつてのキャッチフレーズの下で、ひたすら日本経済が走ってきた“成長政策”への反省と批判を展開している。

それはサッチャー・レーガン以来の英・米主導の成長政策への根本的批判であり、これを範としてきた日本の保守党の政策的誤りを衝(つ)くものである。中谷氏は自著で、自らもその「改革」の一翼を担ってきたことを反省し、「懺悔の書」と名づけている。

中谷氏が留学していた30数年前のアメリカは「ゆったりした中流階級の人々の家庭生活の清潔さと華やかさ。そして、彼らのおおらかさや心の寛大さ。皿洗い機やカラーテレビ、自家用車、そして当時の貧乏学生の私の目についたのが、子どもたちでさえ惜しげもなく使う大量のティッシュ・ペーパー。まさに溢れんばかりの物質的豊かさだった。当時の日本が貧乏だったこともあって、アメリカがことさらまぶしく見えた」

「それから30数年、経済成長は持続し、アメリカは経済的にはるかに豊かな社会になったはずなのに、なぜか今日のアメリカにはかつての『豊かさ』『寛大さ』が感じられないのだ。最近では、文化の香りが残るヨーロッパからアメリカに入ると、アメリカ社会の『粗雑さ』が気になって仕方がない。基本的に『文化』の香りがしないのだ。アメリカ社会は、どうやら大きな質的変化を遂げたらしいという気持ちを抑えられない」

 

消えた中流階級

「この間にアメリカで何が起こったのか。この期間にアメリカの所得格差が驚くほど拡大したということだ。アメリカではビル・ゲイツなどのスーパー・リッチ層が数多く輩出した反面、かつてのアメリカを支えていた豊かな中流階級の人々がどこかに『消え去った』のである」

「驚くべきことに、この数十年の間に、所得上位1%の富裕層の所得合計がアメリカ全体の所得に占めるシェアは、8%から17%台に急上昇した。アメリカ人の『平均所得』は、毎年2%以上も上がった。だが『中位の人の所得』は、ほとんど上がらなかった。ビル・ゲイツのような富裕層の急激な所得上昇がアメリカ全体の『平均所得』を引き上げただけであり、庶民はそのおこぼれにあずかれなかったということである。

これがかつて、世界中が憧れたアメリカ『豊かな中流家庭』が崩壊した真相である」

モラル・メルトダウン(道徳的退廃)を起こして崩壊寸前にいたったアメリカを、いまバラク・オバマ大統領が建て直しに懸命である。100年に一度といわれるアメリカの金融危機・経済恐慌を救出し、再建するとは日本にとっても死活の問題である。

「『グローバル資本主義』の問題の根幹とは、今やモノもカネも国境を超えて自由に羽ばたいているのに、それを制御する主体が国家単位に分散しているということにある」

「人類は『グローバル資本主義』というモンスターに、国境を超えて移動する『自由』を与えてしまった。しかし『自由』には『規律』が必要である。規律なき自由は無秩序をもたらす。ところがナショナリズムによって動いている現代世界においては、国際規模での十分に強力な政治権力が存在せず、したがって、国境を越えて自由を満喫している『グローバル資本』に対して必要な規律ずけをすることができない。この状況が続く限り、世界が長期的安定を保つことはできない」だろう。

 

“インフルエンザ”と国内政局

メキシコに端を発した新型インフルエンザがたちまちアメリカ、日本に、そして世界に波及する状況をみせてきた。日本をさわがせていた北朝鮮のミサイル問題が影をうすめてしまうほどのショックを与えている。

日本の国内政局は5月11日、小沢一郎民主党代表の突然の辞任表明で激震が走った。

小沢氏の秘書に対する西松建設の違法献金事件が表面化して以来、民主党内には代表交代の動きが急速に高まった。民主党は岡田克也・鳩山由紀夫両氏による代表選挙となった。

総選挙直前の民衆党内の“動乱”は、政局にも大きな影響を及ぼさざるをえない。小沢氏の辞意表明は、自陣営の鳩山氏の勝利を予想してのものだが、小沢氏の旧態依然たる動きは必ずしも国民一般の支持を受けるものとはいえないだろう。民主党が国民の真の支持を受けるには、このような古い壁を脱することが求められるだろう。

自民党が長期政権の行き詰まりから脱するには、“派閥政治”からの完全離脱、財界代弁政党から真の“国民政党”への生まれ変わりを実現することが求められる。麻生自民党は、この難題の解決を果たすことができるだろうか。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

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