home>「今日」を読む>政局転換に向けて —「集団的自衛権」とは—

「今日」を読む

バックナンバー

政局転換に向けて —「集団的自衛権」とは—

「あけぼの」2009年8月号より) 酒井新二


解散・総選挙をまぢかにひかえた永田町に、また激震が走った。鳩山邦夫総務相の事実上の更迭である。

日本郵政の西川善文社長の続投に反対する鳩山総務相を説得することに、結局失敗した麻生首相の政治的打撃は大きい。これで麻生内閣の閣僚辞任は、中山成彬・前国土交通相、中川昭一・前財務・金融相に続いて三人目であり、麻生政権はまさに追い詰められたかたちである。

この西川問題の背景には小泉純一郎元首相が推進した郵政民営化などのいわゆる構造改革政策に対する麻生首相の反対が秘められていた。今年2月、麻生首相は“朋友”の鳩山邦夫総務相に対して、日本郵政の6月株主総会で、西川社長を含む取締役を一新するよう指示したという。鳩山総務相の動きは、このような麻生首相の意向にもとづくものであった。しかしこれを察知した小泉内閣の元総務相、竹中平蔵氏は小泉氏とはかり“西川続投”を工作し、日本郵政の取締役人事を決める指名委員会(委員長牛尾治朗・ウシオ電機会長)に働きかけ、それをに成功したのである。

 

民主党の攻勢

一方民主党は、小沢一郎代表の突然の辞意表明で鳩山由紀夫氏が後任代表に、岡田克也氏を幹事長に選んで、急遽(きゅうきょ)、総選挙体制を整えた。

小泉政権以後、安倍・福田・麻生と三代にわたり、総選挙の洗礼を受けていない自民党政権にとって、鳩山民主党の挑戦は予想以上に強い風力になっている。自民・民主の政策の違いは、“大同小異”には違いないが、“政権交代”というキーポイントをもつ野党第一党としての強みは大きい。民主党代表選直後の共同通信の世論調査では、次期総理にふさわしいものとされたのは、鳩山氏43.6%で、麻生氏の32.0%を引き離し、政党を支持率でも民主党30.0%、自民25.2%と民主党が逆転した。

鳩山総務相の辞任は麻生政権の基盤をいっそう弱体化させた。7月12日の東京都議選の結果によっては、自民党総選挙の前倒しを求めて「麻生降ろし」が起きることも考えられる状況になってきた。

 

「集団的自衛権」をめぐって

麻生首相は4月23日、安倍晋三内閣当時設けられた首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)の座長を務めた柳井俊二元駐米大使と会談、「集団的自衛権」の行使を違憲とする現行の政府解釈について意見を聞いた。

「集団的自衛権」とは同盟国など密接な関係にある他国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されない場合でも、自国への攻撃とみなして実力で阻止する国際法上の権利のことである。

歴代内閣は従来、平和憲法(前文と第9条)との関係上「集団的自衛権」は、主権国家として保有はするが、行使はしないという解釈を通してきた。

麻生首相が柳井氏の見解を聞いたのは、従来の政府解釈を変更するつもりがあるからであろう。会談に同席した柳沢協二官房副長官補(安全保障担当)によれば、柳井氏は従来の憲法解釈は変更すべきだとの見解を首相に伝えたと言う。

麻生首相は記者団に対して、“解釈変更”に前向きな姿勢を示したと報道された。

「安保法制懇」が平成20年6月に報告書を当時の福田康夫首相に提出したが、福田首相は記者団に「解釈を変える話などしたことはない」と語り、“解釈変更”を否定したいのである。しかし麻生首相は就任直後の20年9月26日、ニューヨークで「基本的に解釈を変えるべきものだと言ってきた。大事な問題だ」と変更に積極的な態度を示した。ところが10月3日の参院本会議では「解釈については十分な議論が行われるべきだ」と答弁し、早急な変更には慎重な姿勢を示していた。

現在の政府解釈は昭和47年10月、当時の田中角栄内閣で示されたものである。

このような「集団的自衛権」の解釈は、内閣法制局が憲法との関係で強く堅持し、歴代内閣がこれに従ってきた戦後政治の最も基本的原理である。麻生首相が就任以来、ひそかにこの解釈変更を考えてきたのは間違いない。それはアメリカ政府が朝鮮戦争以来強く期待してきたことだからである。それはある意味で、麻生首相に残された最後の切り札でもある。麻生首相がこのカードを切ったとして、それが吉と出るか凶と出るか、麻生総理はひそかに思い悩んでいるのかもしれない。

 

浜田防衛相の発言

一方、浜田防衛相は今年2月来日したクリントン米国務長官に対し、世界規模でのテロ対策や北朝鮮問題など、新たな脅威に対応するため1996年の「日米安保共同宣言」に続く新たな共同宣言を策定できないかと打診したと言われる。

現行の日米安保条約が締結されてから50周年を迎える来年(2010年)を機に、自衛隊と米軍の新たな協力関係の構築を目ざしてというのがその理由である。浜田防衛相は「より大きな観点から、日米同盟全体の意義やあり方について見直していくよい機会だ」と、来日したクリントン国務長官に伝えたと言う。これに対してクリントン長官は明言を避けたと言うが、それは当然だろう。このような重大問題に関し、一防衛大臣の提言に米国務長官が直ちに答えるはずもない。

日米の安全保障協力について総理と防衛相の間に、どれだけの意見交換が行われ、内閣全体として、しっかりとした共通意思ができているかが問題なのである。

米国は「9.11事件」(2001年)を契機に、日本に対して強硬に国際テロ対策の実行を求めてきた。小泉首相はそれに応じてすでに1999年5月に成立していた「周辺事態法」についで2002年6月に「武力攻撃事態法」を成立させて米国の要請に答えた。今またいわゆる“海賊行為”に対して海上自衛隊を出勤させ、日米安全保障条約が規定している“極東の範囲”をはるかに越えて活動させている。これは本来、海上保安庁の守備範囲であり、海上自衛隊の出勤はその逸脱であって、明らかに法律違反の行為と言うべきであろう。


著者紹介:
酒井 新二(さかい しんじ)
共同通信社社長を経て同社顧問。1986年、フランス国家功労勲章オフィシエ章受章。著書『カトリシズムと現代』『カトリックが拓く日本の道』『日本の進路・キリスト者の選択』ほか

▲ページのトップへ