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はじめての『旧約聖書』
イスラエルの民は、神・ヤーウェを子孫に伝えるとき、「アブラハム、イサク、ヤコブの神」と呼びました。
「族長」とも呼ばれている「太祖」たちは、創世記の12章から後に書かれている物語の主人公たちです。彼らは遊牧民で、部族単位で生活していました。各々族長と呼ばれる最年長の族長によって、まとめられていた父権社会です。創世記の時代の生活背景には、長子が大切にされている当時の社会や生活形態を念頭において読む必要があります。
太祖物語の時代は、紀元前1800年ころから後の時代ですが、この物語が書かれた時代は、前850~前500ごろで、J伝承によるものです。J伝承から書いた人々は、出来事をそのまま書こうとしたのではなく、自分たちの先祖がいかに立派な人物であったか、いかに信仰深い人々であったかを後世の人々に伝えたいと思って書きました。
今回は、太祖たちの中から、アブラハム、ヤコブ、ヨセフの生涯を簡単に見てみましょう。
第7回 太祖物語(2) <太祖たちの信仰>
アブラハム物語(12~23章)
太祖物語の最初の登場人物は、アブラハムです。彼はカルデアのウルに住んでいましたが、神の命令に従って、住み慣れた土地を離れ、一族とともにカナン(現在のパレスチナ)の地に移りました。その後、飢饉にあったのでエジプトに逃れましたが、再びカナンの地に戻ってきました。
アブラハムは、一族の数が増えたので、甥のロトの家族と別れました。ロトは死海の近くの低地に住みましたが、神への不信仰のために、神の罰によって滅ぼされてしまいました。
アブラハムの妻サラには子どもが生まれないので、サラの女奴隷のハガルにによってイシュマエルを得ました。しかし、その後サラが90歳で懐妊し、息子イサクを授かります。このときアブラハムは100歳でした。跡継ぎの問題を心配したサラの訴えを聞き入れ、アブラハムはハガルとその子イシュマエルを追放しました。
イサクが大きくなったとき、神はアブラハムに、彼の信仰を試す試練を与えます。息子イサクをいけにえとして差し出すよう求めたのです。アブラハムが祭壇を作り、イサクを殺そうと刃物を向けたとき、天使が介入してその手を止めます。アブラハムの信仰を知った神は、アブラハムを祝福し、「あなたを豊かに祝福し、あなたの子孫を天の星のように、海辺の砂のように増やそう」と誓います。
§22章1~18 ……感動的な物語です。ぜひ、お読み下さい。
その後アブラハムは、175歳でこの世を去り、息子イサクとイシュマエルによって、マクペラのほら穴に葬られます。
ヤコブ物語(25~36章)
ヤコブは双子で、エサウという兄がいました。母リベカはヤコブのほうを愛していました。母の介入によって、目の不自由な父ヤコブをだまして長子に与える祝福を受け、エサウにある長子権を奪い取ります。
兄エサウに恨まれたヤコブは、母の故郷であるハランに逃げます。その旅の途中、天使が登り降りする夢を見て、神の祝福を受けます。
§28章10~19
逃亡先のハランの地で、伯父の娘二人を嫁にします。家族をともなって生まれた地に戻る途中、天使と格闘して祝福を受け、天使から「イスラエル(神が支配すという意味)」という新しい名をもらいます。
ヤコブは12人の息子を授かりますが、一番愛していた末の子ヨセフを失います。その後、ベニヤミンが生まれます。晩年、飢饉にみまわれたカナンの地を逃れ、ヨセフを頼って、一族をあげてエジプトに移動します。死んだと思っていたヨセフが、エジプトのファラオのもとで重臣となっていたのです。
イサクの妻たちと、その子どもたち
レア……… ルベン、シメオン、レビ、ユダ
ビルハ…… ダン、ナフタリ
ジルハ…… ガド、アセル
レア……… イッサカル、ゼブルン、娘・ディナ
ラケル…… ヨセフ、ベニヤミン
ヤコブは、エジプトで17年生き、アブラハムが眠るマクペラのほら穴に葬られます。
ヨセフ物語(37~50章)
ヨセフは、ヤコブが愛した妻ラケルから生まれた、ヤコブの11番目の子どもです。ヤコブは高齢になってから生まれたヨセフをかわいがっていました。そのために腹違いの兄たちの嫉妬をかい、兄たちにだまされて砂漠の隊商に売られてしまいます。
ヨセフが売られた先は、エジプトのファラオの宮廷の役人である侍従長でした。夢を理解する特技をもっていたヨセフは、王の夢を解いたことから王の信任を得、エジプト全国の支配を任されます。
ある年、カナンの地が飢饉にみまわれます。ヤコブの一族は、食糧が豊かにあるエジプトのファラオのもとに、食料を買いにやってきました。ヨセフは、頭を下げる兄たちの姿を見て涙を流します。やがて彼らは、ヨセフのはからいよって、父イスラエルと弟ベニヤミンたちとともに一族そろってエジプトに移住し、ナイル川の下流ゴシェンの地に住みます。
食料を買いにきた兄たちと、ファラオの下で全権を任せられているヨセフのと出会いは、感動的な美しい物語です。ヨセフは、兄たちの悪意によって売られたにもかかわらず、その出来事は、神が自分を先にエジプトに遣わし、一族を救うためだったと語ります。
ヨセフの人生は、波瀾万丈です。自分の人生を恨むことなく、それを神の働きとして見ることができたヨセフに、私たちの信仰の模範を見ることができます。ヨセフは、自分には、神から託された使命があると自覚することができた人でした。
§45章1~8 ……美しい物語です。ぜひ、お読み下さい。
「ヨセフ」という名には、「増し加わる」という意味があります。まさに、彼の人生は、エジプトに売られたときから、彼自身だけでなく、一族に繁栄をもたらした、その名のとおりの人生でした。
ヨセフは110歳で亡くなります。ヨセフの死によってイスラエルの太祖物語である「創世記」は終わります。ヨセフは、イスラエルの民が、「アブラハム、イサク、ヤコブの神」が約束した地に帰る日を夢見て、その生涯を閉じます。