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シスター三木の創作童話

雪の朝のできごと

雪だるまと子どもたちの絵


 雪やこんこん、あられやこんこん、はじめにさらさらっと粉雪が降りました。そしてつぎに、ふわふわっと粉雪が降ってきました。つめたい窓ガラスにおでこをくっつけていたタケちゃんは、いいことを思いつきました。

 「いまのうちに雪だるまをつくっておこう。そしたら、その上にわた雪がつもって大きな、大きな雪だるまができるぞー」って。

 タケちゃんは、走っておとなりのきょう子ちゃんとヒロくんを呼びに行きました。はじめにサッカーボールくらいの玉をつくりました。そして、それをころがして歩きました。真っ白な雪の上にへっこんだ線がなん本もできました。三人でやっと動かした大きな雪の玉に、中くらいの玉をのせました。さあこれで、できあがり。三人は、明日を楽しみにして帰りました。しんしんと雪は降り続いています。たくさんできた雪だるまの線も、もう消えかかっています。

 朝になりました。タケちゃんはいつもより早く起きました。ママがびっくりしています。外は真っ白、銀世界、雪はもうやんでいます。あかるい朝です。三人とも早起きしたようです。昨日の雪だるまは、ふんわりとわた雪をかぶって、もうひとまわり大きくなっていました。三人は、木の枝をひろって目と口を作りました。ちょっと細い目でしたけど、がまんすることにしました。きょう子ちゃんは、ままごとの赤いポリバケツをかぶせて帽子にしました。うれしくなった三人は、雪だるまをかこんでおにごっこをしました。

 タケちゃんたちは、走りまわっていたので気がつかなかったのですが、そのとき、雪だるまの胸のところにボタンのような空色の玉が、出たり入ったりしていたのです。タケちゃんたちは、雪だるまにボタンをつけませんでした。それはね、だれかさんだけに見えたのです。水色の帽子をかぶった小さな雪の子でした。楽しそうに遊んでいる子どもたちを見て、雪の子もいっしょに遊びたくなったのです。

 「ぼくも遊びたいなあ、ぼくもあんなに走ってみたいなあ」。
 雪の子は、雪の精に願いました。
 「ぼくをちょっとの間でいいから人間の子にしてください」。
 雪の精は見えません。でも、声だけ聞こえました。
 「あとで悲しいことが起こってもがまんできますね」その声は、青い空に細くこだまのように響きました。雪の子は、悲しいことってなにかなって、ちょっと考えてみましたが、遊びたくてたまらなかったので、
 「だいじょうぶです」って、答えてしまいました。タケちゃんたちが走ってきます。オーバーにも帽子にも雪がついています。三人は、雪だるまのところに立っている小さな男の子をみつけました。水色の帽子をかぶって白いジャケットをきています。ズボンも水色でした。

 「ぼくも入れて」男の子はいいました。
 「うん、いいよ、いっしょに遊ぼう」。
 「きみなまえなんていうの」。
 「ぼく、ぼくのことみんな、ゆきちゃんていってるよ」。
 「そう、ゆきちゃん」。こんどは四人で雪合戦をしました。ゆきちゃんは、とってもうれしそうでした。ゆきちゃんは、力いっぱい雪のボールをなげました。ゆきちゃんは、きゃっきゃって笑って走りまわっています。

 太陽はだんだん高くなっていきます。雪が少しずつとけだしました。タケちゃんたちは、走りまわったので、からだがポカポカしてきました。ほっぺたがまっかです。鼻の頭もまっかです。ただゆきちゃんだけは、前よりも少し青くなったようです。そしてなんだかぼんやりしているように見えました。

 「きみ、どうかしたの」。
 「ううん、なんともないよ」。男の子はこたえました。
 「そう、じゃ、こんどは竹馬をしようか」。
 「うん」。ゆきちゃんは目を輝かせてこたえました。
 「きみ、ここでまっててね、ぼくたち竹馬をとってくるから」。
 三人はかけ出していきました。ひとりでポツンと雪の中に立ってまっているゆきちゃんは、とてもさびしそうでした。

 「ゆきちゃん、ゆきちゃん」。もどってきた三人は、大きな声で呼びました。返事がありません。
 「どこへいっちゃったのかしら」。
 「ゆきちゃんは」。
 「知らないよ、帰ったのかな」。
 「あの子の家はどこ」。

 三人は、首をふりました。知らなかったのです。しかたがないので、また三人で遊びはじめました。
 そのとき、ゆきちゃんは、力いっぱい、
 「さようなら、とてもおもしろかったよ、ありがとう」って言ってたのです。
 でも、タケちゃんたちには聞こえませんでした。太陽の光でとけた雪の子ゆきちゃんは、青い空を高く高くのぼっていきました。雪の精が言った「悲しいこと」ってこれだったのです。

 雪だるまは、まだとけていませんでした。けれど、人間の子になりたかった雪の子ゆきちゃんだけは、小さな小さな水玉になって見えなくなってしまったのです。

 「またねえー またいっしょに遊んでねえー」。その声は、タケちゃんたちには聞こえませんでした。でも、また雪の日の空から帰ってくるにちがいありません。そしたら、またいっしょに遊んであげましょうね。

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