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シスター三木の創作童話
シャボン玉こわい! 一年生
「さとみちゃん あっちへいらっしゃい。お母さんのじゃましないでちょうだい」
さとみちゃんは、お台所で夕ごはんの後かたづけをしているお母さんのかたわらで、ボールの中の泡に手をつっこんで、いたずらをしているのです。
「あっ、お母さん、ほら、シャボン玉がとんだよ」
「しょうのない子ね。あらー ほんと」
「お母さん、シャボン玉 まだつぶれないよ」
「まあ、ほんとだわ。むかしのシャボン玉だったら、すぐパチンと割れて消えちゃうのに、やっぱりちがうのね。おそろしいわ、洗剤だからよ。きっとうすいビニールの幕ができてるのね、ああこわい」
お母さんは、いつまでも消えないでとんでいるシャボン玉をみつめて、新しい発見でもしたように、そう言いました。
「こわいって、どうして」
「そうよ、こわいのよ。さあ、お皿をよく洗わなくちゃ。公害、公害。さとみちゃんのおなかに、シャボン玉がいっぱい入って、それから血の中に流れていくのよ」
お母さんはそう言って、ジャーといきおいよく水道の栓をひねると、ぎしぎし、お皿を洗いはじめました。
その夜のことです。
さとみちゃんは、夜中にだれかに起こされました。
「ねむい、わたしまだトイレに行かない」
さとみちゃんがそう言おうとしたとき、だれかにパッと口をふさがれ、毛布のようなものをかぶせられてしまいました。それから、どのくらいたったでしょう。さとみちゃんが気がついたとき、さとみちゃんは、7色にひかる透明なものの中に入れられていました。へんにふわふわゆれるまんまるいもの。
「わあ、シャボン玉だ、わあ、シャボン玉にとじこめられたあ」
さとみちゃんの声は、シャボン玉のかべにこだまして、何回もかえってきました。
「どこにいくのかしら こわい」
さとみちゃんは、夕べのお母さんのことばを思い出しました。シャボン玉がぐらりとゆれました。なにしろ外は真っ暗でなにも見えないのですから。ところが、暗がりの中で何か動いています。
だんだん近づいてきました。それは、ボンヤリした、力のぬけた、ろう人形のような人でした。大ぜいいます。
「お母さん、たすけてぇー」
と言いたいのですが声になりません。ろう人形のような人たちのまわりにたくさんの泡が、ぷかぷか浮かんでいました。どうやら、お母さんが言った、シャボン玉公害にかかった人たちのようです。
「うううーっ」
「さとみ、どうしたの、夢をみたんでしょう、おばかさんね、お母さん、ここにいますよ」
さとみちゃんは、お母さんにしがみつきました。
あかるい朝です。起きたさとみちゃんは、まくらもとにある赤いランドセルと、赤い上ばき用の袋に気づきました。
「わあ、一年生、一年生」
さとみちゃんは、パジャマのままで、ランドセルをかかえてとびあがりました。きのうのこわい夢のことなんか、すっかりわすれてしまっているようでした。
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