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シスター三木の創作童話
赤いカーネーション

「お花のじいちゃん、こんにちは」
「おう、坊主、きょうは はやいな」
そう声をかけたのは、いつもこのビルの角っこで花を売っているおじいさんです。
「また、花がほしいんじゃろう、ほら」
おじいさんは、矢車草を一本、花バケツからぬいてさし出しました。
坊主と呼ばれたみつるくんは、「ううん」と首を横にふって、向こうの真っ赤なカーネーションを指さしたのです。
「これか、これはだめだ。これは、きょうのとっておきの花なんだよ」
みつるくんは、幼稚園から帰ってくると、きまって花売りじいさんのところに遊びにいくのでした。きょうは、どうしてもカーネーションがほしいらしくて、まだつっ立っています。
「しょうがないな、坊主。じゃ、のこったらあげよう」
みつるくんは、目を輝かせてカーネーションのそばに立ちました。
通りがにぎやかになって、花がどんどん売れていきます。きょうは、カーネーションを買う人が多いようです。みつるくんは、胸がどきどきしてきました。とうとう、カーネーションは、あと三本になってしまったからです。そのとき、一人の青年が立ち寄って、カーネーションを三本ともとりました。みつるくんは思わず、「あっ」と声をあげて、のばした両手をあわてて引っこめました。青年は、目を大きく開いてつっ立っているみつるくんに気づいて、おじいさんにいいました。
「あのう、どうかしたんですか」
「いいえ、あの、近所の子なんですが、カーネーションがほしいっていうもんで、残ったらあげよう、っていっちまったもんで、へえ、でも……」
「ああ、そう、じゃ」
青年は、そういってカーネーションを一本、バケツにもどしにかかりましたが、みつるくんのほっとしたような目に出あうと、「さあ」とカーネーションを、その手に握らせながら、にっこりしていいました。
「ぼくが、きみのママにプレゼントしよう。きょうは『母の日』だから、きみもママにあげたかったんだろう」
みつるくんは、とたんに恥ずかしくなって、もじもじしました。
「ああ、いいんですよ。いつもくる子ですから」
「いいんです。ぼく、買います」
青年は、いそいで三本分のお金をわたすと、
「もし」、「あのーもし」と呼びかけるおじいさんを背に、すたすたと人ごみの中に消えていきました。おじいさんは、カーネーションを握りしめて真っ赤になっているみつるくんに、「ありがとうって、すぐいわなくちゃなあ」といって、みつるくんの背中を、ぽんとたたきました。
みつるくんは、青年の姿がもう見えないのに、大きな声で、「お兄ちゃん、ありがとう」って叫んだのです。そのとき、「まあ、いつもおじゃましてすみません」とみつるくんのママがやってきました。
「ママ、母の日だよ。カーネーションもらったの」
「あら、いけません。いつもいただいてばかりで、あの、お払いします」
「いいえ、わたしじゃないんですよ。お若い方が、坊やにプレゼントなさったんですよ」
「まあ、それはどうも、ご親切に。すみません。ありがとうございます。いつもいただいて。みつる、マリアさまにおささげしましょう。ママ、マリアさまのお花を買いに来たのよ」
背中をかがめて、お花をえらぶママとおじさん。みつるくんは、さっきのお兄さんに、「ありがとう」が聞こえたかしらと、心配になってきました。
「そうだ、マリアさまにおいのりしよう。おじいちゃんとお兄ちゃんを、お祝いしてくださいって、いのるんだ」
そう思いつくと、はやく、家にかえりたくなりました。
「ママ、かえろうよおー」
そういって、みつるくんは、ママのサロンエプロンを、ぐいぐい引っぱりました。
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