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シスター三木の創作童話
およめさんになったおねえさん
「ゆみちゃん、どうしたの。お姉さんきれいでしょう。まあ、つよしちゃんもどおしたの。二人ともそんなところに立っていないでこちらにいらっしゃい」
真っ白のまばゆいばかりに輝くウエディングドレスのお姉さんは、壁にくっついているゆみちゃんとつよしちゃんを、やさしく手まねきしました。
つよしちゃんは、お姉さんの部屋の壁に、ぴったんことくっついて、心の中でこういっていたのです。
『だって、きょうのお姉さん、変なんだもん。きのうまでぼくとキャッチボールなんかして、ぼくをさんざん負かせたくせに、きょうのお姉さんったら、お姫様みたいにすましている。でも、きれいだなあ。それに、きょうはとってもやさしい。およめさんになるってこんなにかわっちゃうのかなあ』
お姉さんは、朝の白い光の中で、すきとおったヴェール越しにほほえんでいます。つよしちゃんは、急に、なんだか恥ずかしくなりました。
「つよし、お姉さんはお嫁にいっちゃうんだよ。まき子、きれいなお嫁さんだ。おめでとう」お父さんの声です。
お父さんも、きょうは少し変です。
わざとことばに力を入れて、目をぱちぱちしばたたいているのです。
お姉さんがお嫁にいっちゃうのでさびしいのかもしれません。
「さあ、そろそろ出かけましょう。つよし、ゆみちゃん、出かけますよ。くつは玄関に出してありますよ」
お母さんのせかせかした声。
今朝は家中が興奮しているのです。
まき子姉さんは、ヴェールをあげて、それから、白くピカピカひかるドレスのすそをちょっとつまむと、お姫様のように部屋を出ていきました。壁にくっついていたつよしちゃんとゆみちゃんに、にこっとほほえんで。
「ゆみ、なにを考えてるんだ」
つよしは、ゆみちゃんをつつきました。
ゆみちゃんは、目をくるくるさせて首をかしげただけです。
でも、ほんとうは困っていたのです。
『お嫁さんってきれいだなあ。わたし、まき子姉さんのようなお嫁さんになりたいし、シスターパトリシアのようなシスターにもなりたい。困ったなあ、どっちにしよう』って。
「ゆみも、つよしも、どうしたの。ぼんやりしちゃって。さあ、車がきましたよ」
お母さんの声です。
「まき子さんがお嫁に行くので、二人ともさびしくなったんですよ。ねえ、そうでしょう」と松田のおばさんがゆみちゃんをのぞきこんでいました。
車の中で、つよしちゃんとゆみちゃんは大人たちとは違うことを考えていました。
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