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シスター三木の創作童話

天にあげられたマリアさま

女の子とお母さん


 「この百合の花、五本くださいな……どうもありがとう、さあ、行きましょう」
 「ママ、わたしに 持たせて」
 「いいの、ママが持つから、百合の花ってよごれやすいのよ、じょうずに持たないとすぐ、めしべが花びらについちゃうの」
 「ねえ、ママ、お願い、じょうずに持つから、その百合の花、マリアさまにあげるんでしょう」
 「じゃ、気をつけてね、まっすぐ持って」

 白地に紺のプリント模様 涼しげなワンピースの母と子が、水色のパラソルを背に、くっついたり離れたりしながら、真夏の土手を歩いて行きます。あたりは静かで、ときおり、川から吹きあげてくる風に、土手の草がさわさわと音をたてるくらいです。女の子の大きな麦わら帽子の肩越しに、まばゆいほど白い百合の花がのぞいています。

 「ねえ、ママ、あしたは、マリアさまが天国に行かれた日でしょう。なにに乗って行かれたの」
 麦わら帽子が左に傾いて、百合の花が大きくゆれました。
 「マリアさまは、イエスさまのお母さまでしょう。だから、神さまの力で、天にあげられたのよ」

 大きな麦わら帽子の女の子は、青く高く澄み切った空を見上げたとき、ちょうど、飛行機が、細く白い飛行機雲の尾を引いて、雲の中に消えていくところでした。

 「ねえ、ママ、マリアさまは、雲のエスカレーターに乗ったのよ。そうよ、きっとそうよ、ほら、ママ、お空を見て!」

 水色のパラソルのママは、女の子が指さす方をながめました。
 「ねえ、そうでしょう。エスカレーターのベルトに、小鳥さんがたくさん止ったのよ。マリアさまに、『さようなら』って言いに来たの、とんぼも止ったかな」
 「みよちゃん、お花をまっすぐ持ってね」
 ママは、女の子のおしゃべりがはずむたびに、百合の花が大きくゆれるので、はらはらしています。

 「それからね、ママ、エスカレーターが終わるところに、天使たちがお迎えに来てたのよ。わたし、テレビで見たわ、ジャックとマメの木。ジャックが、雲のじゅうたんの上を歩いていたよ、ねえ、ペトロが天国の鍵を持っているんでしょう。大きい鍵」
 「みよちゃん、そんなにおしゃべりして暑くないの、ママ暑いわ」
 そういうママの顔が、赤くほてっています。

 「ううん。みよちゃん、暑くない。ねえ、ペトロが、天国の門を開けてくれたんでしょう」
 「ああ、みよちゃん、お花に気をつけて! そうよ、天国の門をペトロが大きな鍵で開けてくださるのよ、そして、イエスさまが、『お母さま、おかえりなさい』って、走っていらっしゃったのよ」
 女の子の話を、ママが続けました。

 「わあ、すてき、みよちゃんが天国に行くときも、雲のエスカレーターに乗って行けるのね」
 「そうね、みよちゃんが、マリアさまのいい子だったらね」
 女の子のおしゃべりは終わりました。教会の門が見えてきたからです。とっても、まじめな顔をしたみよちゃんは、ローソクの灯が、ゆらゆらゆれているマリアさまの祭壇の前にひざまずきました。そして、小さな手をあわせて熱心にお祈りをしたのです。
 8月15日は、マリアさまが天にあげられたお祝い日です。
 みよちゃんは、何て、マリアさまにお祈りをしたんでしょうね。


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