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シスター三木の創作童話

空をとんだ羽根

羽根突き

 よく晴れたお正月の朝です。
 晴れ着の子どもたちが、手に手に羽子板を持って走っていきます。
 「あそこにきめた」
 「わあ、広くていいなあ」
 空き地についた子どもたちは、羽根つきをはじめました。
 「だめよ、バトミントンじゃないんだから、もっと小さく打たなくちゃ」
 羽根つき遊びなんて、お正月ぐらいしかしないのですから、上手にできないのです。
 おたがいに羽根ひろいばかりしています。
 「ああ、見て、そんなに強く打つから、羽根が木の枝にひっかかったじゃないの」
 「だめよここは。あっちにいこう」
 子どもたちは、木のない広場を見つけて走り去っていきました。

 空き地の柿の木にひっかかった羽根は、子どもたちに置いてきぼりにされてしまったのです。
 「ああ、せっかく空をとべて良い気持ちだったのに」
 羽子板の羽根は、つまらなそうにつぶやきました。
 その柿の木には、もぎ残しの柿が三つ、くっついていました。しばらくすると、おなかをすかしたカラスが、柿の実をつつきにやってきました。そして、羽根のつぶやきを耳にしたのです。
 「きみ、なんていう鳥だい、へんなかっこうだね、いったいどうしたっていうんだい」  羽子板の羽根は、一部始終をカラスに話しました。
 「ああ、そうだったのか、きみは鳥じゃないんだね、いいよ、おれが空をとばせてあげるよ。ちょっと待ってろよ。いま腹ごしらえするから」
 そういうと、カラスは、その長いくちばしで熟しきった柿を三つとも、たいらげてしまいました。
 「さあ、いこう」
 カラスは、羽根をくわえると空に舞いあがりました。羽根は生まれてはじめて、こんなに高くて青い空をとんだのです。畑や小川が、どんどん後にいってしまいます。羽根は、あまりの素晴らしさにうっとりしていました。
 そのとき、カラスが、
 「どうだいすてきだろう。ご気分いかが」といいました。
 羽根は、カラスの「どう……」を聞いただけでした。だってカラスが話をするために口を開けたからです。

 落っこちた羽根が気づいたのは、野原の枯れ草の上でした。
 羽根はがっかりしました。
 こんな広い野原では、もう、だれも見つけてくれないだろうと思ったからです。
 ところがそこへ、野うさぎが二匹、ぴょんぴょんはねてやってきました。

うさぎと羽根

 「あれ、おもしろいものが落ちてるよ」
 うさぎたちは、丸っこい鼻にしわをよせて、ぴくぴく、羽根のにおいをかぎました。
 「おねがい、ぼくを食べないで。ぼくは羽子板の羽根なんだ。ね。きみたち、後足でぼくをけってごらん」
 うさぎは、羽根がしゃべったのでびっくりしました。
 そしていわれたように、長い後足で羽根をけり上げました。
 一匹のうさぎがけり上げた羽根を、もう一匹のうさぎがうけて、また、けり上げました。羽根は、何回となく二匹のうさぎの間をいったりきたりして、すっかり良い気持ちになりました。
 背の高い草むらの上を、五色の羽根だけが出たり入ったりして見えます。
 それは、ふしぎな出来事のようでした。


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