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シスター三木の創作童話

ヨセフさまの杖

ヨゼフさまとロバに乗ったイエスさまを抱いたマリアさま

 救い主のご誕生を告げる、大きな星のみちびきで、東方から三人の博士たちが、赤ちゃんのイエスさまを拝みにきていました。そしてその夜、ヘロデのところに行かないで、他の道を通って帰るようにという、ふしぎな夢を三人とも見たのでした。三人の博士たちは、夢のお告げのとおり、別の道を通って帰っていきました。

 一方、ヨセフさまも、またひとつのふしぎな夢をごらんになりました。 「マリア、わたしは、またふしぎな夢を見ましたよ。前に一度会ったことのあるあの天使が、わたしに、『ヘロデ王が、御子さまを殺そうとしてさがしています。いまからすぐ、マリアさまと御子さまをつれてエジプトへ逃げなさい。すぐ、すぐに』というのです」 「まあ、ヨセフ、わたしも同じ夢を見ましたわ。わたしたちは、いそがなければなりませんね」

 マリアさまは、よくおやすみになっているイエスさまを抱きあげると、持ってきていたやわらかい布でくるみ、ご自分のブルーの大きなマントの中に入れてあげました。

 ヨセフさまは、天使が告げたエジプトをめざして旅立ちました。ロバの背には、イエスさまを抱いたマリアさまと、小さな手荷物をのせました。やさしいヨセフさまは、マリアさまをのせたロバが、これからの旅の間につかれてはいけないと、大きい方の荷物は自分で背負うことにしたのです。

 ヨセフさまは、いつもの杖を持っていました。その杖は、ヨセフさまにとって、たいせつな思い出の杖でした。

 それは、マリアさまが、ヨセフさまの家へ来られたときのことです。この杖の先にまっ白なゆりの花が咲いて、まずしいヨセフさまの家をその日のおいわいにふさわしくかざってくれたのでした。そして、ゆりの花の良い香りが、小さなへや中にみちあふれていました。

 ヨセフさまは、きょうも、この思い出の杖をついて、人目をさけ、エジプトへのさばくの道をあるいていきました。幼いイエスさまは、マリアさまの胸の中で、すやすやとおやすみです。

 「ヨセフ、おつかれになったでしょう。あなたはあるいておられるのですもの、わたしをのせているこのロバも、きっとつかれています。このあたりで、少し休みましょうか」
 「いいえ、マリア、わたしたちは先をいそがなければなりません。もし、ヘロデの兵隊たちが、追いかけてくるとしたら、馬でやってくるでしょう。すぐ追いつかれてしまいます。

 いまのうちに、もう少し遠くへ逃げなければなりません」
 ヨセフさまは、そういって、つかれているロバのたてがみをやさしくなでてやりました。

やすむ聖家族

 さばくの夕陽もだんだん落ちていき、あたりは薄ぐらくなってきました。けれど、ヨセフさまは、道をみつけるのに少しも困りませんでした。ゆりの花を咲かせた杖の先が、こんどは花火のように、パチパチ燃えて、前方を照らしだしてくれたからです。マリアさまは、さばくの夜風が幼いイエスさまにあたらないようにと、心づかっておられます。マリアさまは、心の中でいっておられました。

 「ヨセフ、その杖は、天の御父がくださったものですね。あのときは、ゆりの花を咲かせ、そしていまは、道のあかりとなってくれるのですもの」と。

 「マリア、エジプトは、もうすぐですよ、ここまでくれば、もう安心です。ほら、ごらんなさい、あの道の向こうに黒く見える茂みがあるでしょう。あそこには、泉があります。あそこまで行きましょう」

 エジプトに近いさばくのオアシスで、マリアさまとヨセフさま、そして赤ちゃんのイエスさまは、ゆっくりお休みになりました。ロバも、水をのませてもらいました。ロバは、マリアさまとイエスさまに冷たい風があたらないようにと、その大きなからだで守ってあげました。ヨセフさまの杖の先は、まだ、パチパチと燃えて青白い光をはなっています。

 それは、一面、まっ暗な夜のさばくの中に小さな星くずが落ちて、きら、きらっと輝いているように見えました。


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