home>シスター三木の創作童話>やっぱり鯉のぼりは つないでおこうね
ここは、ジローちゃんとナナちゃんの家の庭です。大きな鯉のぼりが立っています。
「ナナ、見てごらん、あの黒い大きい方がぼくだよ。ナナは、赤くて小さい方だ」
ジローちゃんとナナちゃんは、なかよしきょうだい、小学校5年生と2年生です。
「おにいちゃん、あの鯉のぼり、かわいそうね、木につながれているんだもの、きっと水の中を泳ぎたいって思ってるわ」
「うん、そうだね、つながれててかわいそうだね。あのつなが切れたら、きっと大空を泳いでいっちゃうかもしれないねえ」
「ねえ、おにいちゃん、魔法使いがいたらいいのにねえ、そしたら、魔法をかけてもらってほんとうの魚にしてもらうの」
「魔法使いなんかいないよ、それより神さまにおねがいしようよ、聞いてくださるかもしれないよ」
「そうね、じゃ、どこで、おいのりする」
「うーんと、あの木の下だ」
ふたりは、庭の隅っこにある、ねずみもちの木の下に走っていきました。
その夜のことです。ジローちゃんとナナちゃんは、縁側から、もう暗くなってしまった庭を、ぼんやり見ていました。風がないので、鯉のぼりは、高い棒に、ぶらりと下がっています。ところが鯉のぼりは、ただ下がっているだけでなく、ずるずると下りてきます。そして、ジローちゃんとナナちゃんが立っている縁側のすぐ下まで、やってきました。まるで水の中を泳いでいるようです。
「さっきはおいのりありがとう。さあ、わたしの背中に乗ってください。いいところにいきましょう。はやく、はやく」
ふたりは、鯉のぼりの背中にまたがりました。鯉のぼりは、ぷうーとふくれたかと思うと、ゆらゆらっとゆれて空に舞いあがっていきました。街の灯がだんだん小さくなっていきます。ネオンサインが、教会の窓のステンドグラスのように輝いて見えます。ああ、とうとうそれも見えなくなってしまいました。
「鯉のぼりさん、ぼくたち、いったいどこへいくんですか」
「これから天の川に泳ぎにいきます。天の川が見えてきました。きらきらひかっています」
「うわあーっ、すごい、ナナ、ぼくにしっかりつかまってるんだよ」
ふたりをのせた鯉のぼりは、ぐんぐん泳いでいきます。もうどこを見ても星くずばかりです。ジローちゃんとナナちゃんは、だんだん心細くなっていきました。ジローちゃんは、お母さんにだまってきてしまったことを思い出して、悲しくなりました。
「鯉のぼりさん、ぼくたち、もう帰らなくちゃ」
「いいえ、もう帰ることはできません。天の川を泳いだ魚は、もう地上に帰れないのです。そして、あなたたちも、わたしのように魚になるのです」
「いやだあ! 帰りたいよおー 神さまあーっ、たすけてくださあーい」
「おにいちゃん、おにいちゃん」
パジャマのナナちゃんが、ジローちゃんの顔をのぞきこんでいます。
「ああよかった、ナナ、鯉のぼりは、しっかりつないでおこう。それから、でかけるときは、かならず、お母さんにいってからいこうね」
ナナちゃんは、ぽかあーんとしています。ジローちゃんは、もう、グーグーいびきをかいてねています。