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シスター三木の創作童話

天使の雪がっせん

窓辺のかずちゃん

 かずちゃんは、小学校一年生。このマンションの3階に引っ越してきてはじめての冬休みをむかえました。
 かずちゃんの勉強机は、大きなへやの窓側にあります。かずちゃんは、広い空が見えるこの窓がだいすきです。このマンションに来るまえ、かずちゃんは、町の真ん中をとおるハイウェイのすぐ側に住んでいました。そこでは、ハイウェイの高い柱にさえぎられて、窓から広い空なんて見えなかったからです。きょうも、かずちゃんは、窓ガラスにくっつくようにして外をながめています。

 「かずお! あなたはかぜ引いているのよ。こっちへいらっしゃい! からだが冷えちゃうわよ」
 お母さんの声がお台所からひびいてきます。
 「かぜがよくなったら、外へ遊びにいけるのよ。はやくなおしましょうね」

 そうなんです。せっかくの冬休みだというのに、かぜ気味のかずちゃんは、外へ出られないのです。長いこと、このハイウェイの近くに住んでいたかずちゃんは、排気ガスのせいですっかり気管支をいためてしまったのです。そこで、お父さんは、かずちゃんの健康のためにと、たいしてお金持ちでもないのに、無理をしてこのマンションに引っ越してきたのでした。

雪がっせんをする天使たち

 「お母さん、みんな外で雪がっせんをしているよ。ぼくもいきたいなぁー、かぜがよくなったら外にいってもいいんでしょう。もう、ぼくよくなったよ。のどもいたくないし、せきだって出ないもの」
 「だめ、だめ。今がたいせつなのよ。またぶり返したらたいへんでしょう。学校がはじまるまえになおしておかなきゃね。はい! あついミルクよ、おのみなさい」

 かずちゃんは、お母さんがつくってくれたあついミルクをもって、また、窓辺の机にもどってきました。
 マンションの広場では、久しぶりにつもった大雪に、こどもたちが、ほっぺたをまっかにして雪がっせんをしたり、雪だるまをつくって遊んでいます。かずちゃんは、『つまらないなぁー』とつぶやきながら、広くて青い空に、ぽっかり浮かんでいるあわ雪のような雲に目をやりました。

 「ふうーん、天使って何をして遊ぶのかな」
 かずちゃんは、くりすます絵本のなかの子どもの天使のことを思い出したのです。
 「こどもの天使も雪がっせんするのかな。でも、天使がいるところは空の上だから、雪なんてつもらないんじゃないかな、そしたら……そうだ! きっと雲をちぎってボールをつくるんだ!」

 さあ、それから、かずちゃんは、いそがしくなりました。天使たちが大ぜい雲をちぎって丸めているからです。雲のボールは軽いのですぐ風にとばされそうになります。そこで天使たちは、雲のボールを大きなあみの袋の中に入れました。そう、二つの袋の中に入れました。一つには、夏の空の白い雲を入れ、もう一つには、朝日にそまったピンクの雲を入れたのです。二組にわかれたこどもの天使たちの雪合戦。いいえ、雲がっせん開始です。空いっぱいに白とピンクのボールが広がります。わぁ、ボールが風にとばされました。

ミルクを飲むかずちゃん

 でも、だいじょうぶ。天使には羽根があります。背中の羽根をさぁーと広げてボールをつかまえるのです。ドッチボールをするときのように、かこみの外にいる天使たちが、ボールをあつめています。雪のボールが投げられてつぶれてしまうように、雲のボールはおしまいにはくっつきあって大きなかたまりになってしまいました。そこで天使たちは、雪だるま、いいえ、雲だるまをつくりました。白とピンクの雲だるま。でも、目と鼻、口につけるものがありません。そこでかずちゃんは、ずぐ、つみ木をかしてあげました。三角のつみ木は目になりました。細長いつみ木は鼻、ま四角のつみ木は口です。

 「できた、できた!」
 かずちゃんは、とびあがりました。天使たちもとびあがりました。天使たちは、雲だるまを押しながら、どんどん高くのぼっていきます。
 「さようなら、天使さあーん。またねー」
 かずちゃんは、青い空にぽっかり浮かんでいるあわゆき雲に手をふりました。それから、ミルクをぐーっとひといきにのみほしました。ミルクは、もうぬるくなっていました。

雪だるま

 「お母さん、ぼく、おなかがすいた!」
 「あら、いいことね。うれしいわ。たくさん食べて、はやく元気になってちょうだい」
 「うん。ぼく腹ぺこだ! だって天使の雪がっせん、ものすごかったんだもの」
 かずちゃんは、ほんとうにこうふんしていました。


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