home>シスター三木の創作童話>アスファルトの下になにかある
お家が、新しくなったので、お庭も、花壇をのこして、アスファルトに舗装されました。そして、おとなたちは、いいました。
「ああ、これで草とりから解放されるわ」
こどもたちは、心の中で考えていました。
『ペンペン草や、ねこじゃらし、ほかにもかわいい草がたくさんあったのに、ざんねんだなあ』って。
雨が降るとおとなたちは、
「足が、よごれなくてすむわ」
とよろこびました。
こどもたちは、
「水たまりが、なくなってしまったね」
と、かなしみました。
ところがどうでしょう。水たまりは、前よりもたくさんできました。それに、前よりも深い水たまりです。こどもたちは、大よろこびです。おとなたちは、つぶやいています。
「ずいぶん、へたに工事したのね。これじゃ前よりひどいんじゃないの。でもまあいいわ。こどもたちの雨靴が泥んこにならないだけでも……」
ある日のこと。アスファルトの庭に、かわったことが起りました。厚さ2センチほどもあるアスファルトが、ところどころひび割れてきたのです。おとなたちは、怒っていいました。
「あら、ひどいじゃないの。ひびわれちゃって。ほんとに雑な工事だったのね。文句いいにいこうかしら」
こどもたちは、アスファルトの割れ目をのぞきこんで、なにが起ったのかしらべようとしています。
「もぐらかしら。もぐらさんが出口をこしらえているのかしら」
おとなたちは、盛りあがってきた割れ目をもとにもどそうとして、われはじめたアスファルトの上を、とんとんと、ふみつけました。
こどもたちは、もぐらの出口がいつ開くのかと、毎日、たのしみにしています。
しばらくして、とうとうアスファルトの割れ目が開きました。そして、その中から、みどりの芽が、にょっきりと、出てきました。こどもたちは、いいました。
「わあ、もぐらじゃないよ。みどりの芽だよ」
こどもたちは、頭をくっつけあって、アスファルトの割れ目を、のぞきこみました。
そのころ、おとなたちは、ちょうど具合よく、とてもいそがしくしていて、アスファルトの割れ目のことを忘れてしまっていました。みどりの芽は、日毎に大きくなっていきます。こどもたちは、アスファルトをつき破って出てきたみどりの芽に応援しました。
「がんばれ、がんばれ、みどりのこども」
「がんばれ、がんばれ、みどりのこども」
アスファルトの下のみどりの根っこたちも、ファイトを出しました。こどもたちの応援にこたえて、がんばらなくちゃと思ったのです。
「ファイト、ファイトもう一息だ。ファイト、ファイト、もう一息だ」
太陽も、こどもたちに加勢しました。毎日、あたたかい光をおくって、アスファルトの芽に注ぎました。おとなたちが、ちょっといそがしくしていた間に、アスファルトの芽は、大きく育ちました。そして15センチほどの長い葉っぱになりました。そして真ん中の茎の先に、ふっくらとしたつぼみをつけました。つぼみは、だんだん白くなっていきました。
おとなたちが、やってきました。
「あらまあ、こんなところに水仙が出てきたわ。まあ、ごらんなさいな、こんなに固いアスファルトを破って、出てきたのよ。生命力ってすごいのね」
こんどは、おとなたちもよろこびました。
「せっかくだから、そっとしておきましょう。花がおわるまで。ねえ、あなたたち、お花つんじゃだめよ」
こどもたちは、きょとんとしています。だって、このみどりの芽を見守ってきたのは、こどもたちだったんですもの。こどもたちはいいました。
「このお花、ぼくたちの花だよ」
こんどは、おとなたちが、きょとんとしました。
「じゃ、たいせつに育ててね」
おとなたちは、
「いのちって、すごいものね」
「ほんとに、感心したわ」
なんていいながら、家の中に入っていきました。こどもたちは、おとなたちがいっていた、生命力って、お花が生きる力だってことを、自然に、わかってきたのでした。こどもたちは、アスファルトをつき破って出てきたいのちのまわりに、白いクレヨンで輪をかきました。そして、つぎのようにかきました。
“ぼくたちをふまないでください。おねがい”
こどもたちは、声をそろえていいました。
「ここを、ぼくたちの花壇にしよう」