home>シスター三木の創作童話>わが家は男が6人
くにひろくんは、男ばかり5人兄弟中のビリッカス。くにひろくんのお母さんは、休みの日になるときまってヒスを起します。
「ああ、もう、もうたまらないわ。この狭い家に男ばかり6人。(うち1人はお父さん)こうも大男にゴロゴロしてられちゃ、ものが片づかなくてこまるわ。せめて1人ぐらい女の子だったらよかったのに。さあ、お掃除をするんだから、みんな足を浮かしてちょうだい!」
お母さんのこのヒス声を耳にすると、くにひろくんたちは、大兄さんを先頭に、我先にと押し入れの中にもぐり込んで、早い昼寝ときめ込むのです。
「男の子って、どうしてこうもくさいのかしら。それにタバコでしょう。大学生になったとたん、こうなんだから、家中煙だらけだわ」
こんな時、お父さんといえば、これまた狭い庭先で体操なんかやって、お母さんの神経にさわらないようにしているのです。
この家のお父さんは、やせてて、ひょろっと背が高いのです。それにくらべてお母さんときたら、見事なELサイズ。そのお母さんがいいます。
「お父さんはね、あなたたちを育てるために働いて働いて、こんなにおやせになったのよ。あなたたち、早く一人前になって、お父さんに楽させてあげなさいよ」
「じゃ、お母さん。ふとってるから苦労してないんだね」
「なにいってんのよ。わたしのは苦労ぶとりっていうの。あなたたちみたいな、大ガキを5人も育ててごらんなさいよ。たくましくなくちゃ、もたないってものよ」
大学生の大兄さんは、
『お袋さん、うまいこといってるよ』
なんて心の中でいっているのでしょう。ニヤニヤしてウインクなんかしています。
「なかんちゃん。下でお豆煮てるの。ちっと火加減を見てちょうだい」
中兄ちゃん。それは、真ん中の大学浪人の兄さんのニックネームみたいなものです。5人の荒らくれ男の中で、中兄ちゃんだけが、やさしくて女の子の代用ができるのです。料理もかなり良い線をいっています。しかも行動派、上の2人の兄さんたちも、中兄ちゃんのいうことは、よく従うようです。性格が良いっていうのか・・・それに浪人中だから、家中のものがみんなで、いたわってやっているからなのかもしれません。
いまどき、兄弟が5人もいるなんて、中2のくにひろくんのクラスでもめずらしいことなのです。
「きみ、またそれもセコハンかい。だいたいきみんち、兄弟が多すぎるんだ。だから末っ子は、すべてがセコハンなんてことになっちまうのさ」
くにひろくんはこんなとき、
『いいじゃないか、兄弟がたくさんいるってことの良さ、わかんないくせに・・・』
って心の中でいい返すのです。近所のおばさんたちだっていいます。
「まあ、お子さんが大勢だと大変ですわね。うちでは2人ですけど、それでも、やっとですのよ。最近は、いろいろと費用がかさみますしね・・・」
ところがお母さんの答えは、いつもこうです。
「ええ、でも、子どもが多いってにぎやかでいいものですわ。第一家中に活気があふれますでしょう。それにあと2、3年もすれば、何とか一息つけますし、あの子たちが大人になって社会へ旅立つ日のことを考えただけでたのもしくなりますわ。将来にたくさんの希望が持てますもの。心強いですわ」
くにひろくんは、こんなお母さんのことばを聞くとおかしくなるのです。
「お母さんって、外だと強気になるんだなあ。家にいるときと、全く違うんだから。だっていつも、ゴロゴロしてじゃまっけだの、くさいだの、良いことちっともいわないのにさ」
くにひろくんにとって、お母さんは、口うるさくてたまらないと思うときもあるけど、大体は、気が大きくて、つきあいやすい性格だと思っています。お父さんは、家では、あまりしゃべりません。くにひろくんたちがすることにいちいち干渉しないでくれるのはとてもありがたいことだと思っています。しかしお父さんは、ぼんやりしているように見えて、ちゃんと目を光らせていて、何かあると、ぴしゃっと叱るのです。ふだんめったに口を割らないだけに、かえってこわい存在です。
このくにひろくんたち5人のアジトは、2階の2室。毎日が合宿のような共同生活です。いい気になってついさわぐと、下から例の声がひびきます。
「うちは安普請ですからね。天井をぶち抜かないでちょうだい!」
くにひろくんたちは、年中この紅一点から、どなられ、人さまからは兄弟が多い多いって、とかく言われがちだけど、やっぱり兄弟は多い方が良いんだって心の底から思っているのです。
「この良さ、経験しないとわからないよな」って、思っているのです。