home>シスター三木の創作童話>妖精といっしょに住んだから?
大きな木の株に妖精がふたり腰かけて、何やら楽しそうに話をしています。妖精のひとりは、すらりと背が高く、もうひとりのほうは、ふとっていて背は低いようでした。ふたりとも、いっしょに暮らしてくれる人間をさがしに行くところだったのです。
「ねえ、ロングくん。この町に、ちょうど2軒の店が開店したって、いま風さんが教えていってくれたよ。どうだい。隣り同士だっていうし、そこに行かないかい。ぼくたちも、わかれたくないし・・・」
「ああ、いいね。そうしよう。ショートくん」
妖精の名前は、背の高いほうがロング。背の低いほうがショートといっているようです。それからふたりは、風にのって、この開店したばかりの2つの店、パン屋とおまんじゅう屋に入りました。2軒とも同じくらい、小さな店でした。朝は早くから、パンの焼けるおいしそうな匂いと、おまんじゅうのあたたかい湯気が、この2軒の店のまわりにただよっていました。2軒ともよく繁盛しました。それはそうです。2軒の店には、妖精が住み込んだのですから。お客さんは、パンの匂いと、おまんじゅうの湯気につられてやってきました。こうしてだんだんと、月日がたっていくうちに、いつのまにか、パン屋の店は、新しく改築されました。そして店のほうも、住いのほうも、朝から晩まであかあかと電気がついていました。どうやらパン屋は、お金の魔力にとりつかれてしまったようでした。それに引きかえ、おまんじゅう屋のほうは、朝つくったおまんじゅうが売り切れる夕方には、きちんと店じまいをするのでした。
「お隣さんはよく働くなあ。店も一段と大きくなった。けれど、あんなに根つめて働いたのでは、からだがもたないよ」
そういうおまんじゅう屋の主人は、健康そうでした。夕方ははやく店をしめ、明日の準備をし終えると、夜は食卓を囲んでなごやかな家族団欒のときをすごすのでした。店のほうは、開店した時よりちょっとましたくらい大きくなっただけです。それでも“手づくりの店”ということでお客さんは多かったので、お隣のパン屋のように昼も夜もと働けば、きっと大きな店になるはずでした。しかし、
「そんなことをしてたら、わしら人間のほうが、まんじゅうに食われてしまいますよ」
というのが、この店の主人の言い草でした。
「おれのお地蔵さんのお供えは、3日もするときれいに片づけられてしまうのだが・・・お地蔵さんが食べるってわけはないし・・・。たぬきやきつねが食べてるのかもしれないな。でもまあいいや、お供えがくさらないうちに処分してくれるのだから・・・」
とお供えのことは、そう思っていました。
パン屋のほうは、店も大きくなりお金もどんどんたまりましたので、住いのほうも広げ、立派な調度品もそろえていきました。店や住いが立派になるのと反対に、パン屋の主人もおかみさんも、やせて青白くなっていきました。家族がそろって食事をするなんてこともめったにありません。それぞれが、仕事のあい間を見ていそいで食べるのです。そして、食べている間も、商売のことを考えつづけているのでした。このようにでもして時間を見つけないことには間にあわないほど、この店は大きくなってしまったのです。従業員もふえました。そして人を使う時の気苦労もふえました。
おまんじゅう屋は、日曜日はお休みでした。晴れた日には、必ずといっていいほど、家族そろって出かけて行きました。
パン屋のほうは、日曜日でも、お客さんが大切と、店をあけていました。こうしてパン屋はお金持ちにはなったけど、時間に追われて、自分の時間というものを失っていました。
おまんじゅう屋のほうは、お金はそれほどたまりませんでしたが、家族の時間というものをたっぷりもっていました。
そんなある日のことです。あのふたりの妖精が、野原の一本道をなかよく歩いて行きました。
「こんどは、どこに行こうか。パン屋はもうぼくがいなくても、あの調子でやっていくだろうよ」
「そうだね。ぼくのほうも大丈夫だと思うよ。また、新しい友達をさがしたいなあ」
背の高い妖精ロングと、背の低い妖精ショートは、つないだ手を振りながら一本道の向こうに消えて行きました。ふたりは、時計の針の精だったのです。