home>シスター三木の創作童話>星の目の魚(さかな) その1
ジィー、ジィー。聞こえてくるのは、セミの声だけです。
タローちゃんは、お父さんと一緒に、川につり糸をたれてぼんやりとしていました。
魚がかかってこないのにしびれをきらしたお父さんは、土手にねそべっておひるねをしています。お父さんのうきが、ぴくっ、ぴくっと動きました。タローちゃんは、お父さんが声を立てないで起きてくれるようにと、そっとお父さんの腕をゆすりました。
「しーっ。お、と、う、さ、ん。う、き、が、う、ご、い、て、る、よ。は、や、く」
お父さんは、むっくりと起きあがりました。そのときです。お父さんのつりざおの先が、ぐーっとまがりました。
「おお、かかったぞー」
「お父さん。失敗しないで。逃がさないでね」
「タロー、それ、いくぞ」
お父さんは、力強くつりざおをはねあげました。
「なんだ、意外と小さいな。だけど、めずらしい魚だぞ。ほら、見てごらん」
お父さんは、空色の魚からつり針をはずしました。
「よし、タロー。川の水を汲んでおいで。この魚を活かしておこう」
「うわー、すてきだ。金魚鉢で飼えるかな。ね、お父さん、水を汲んできたら、すぐかえろうよ。魚が死ぬといけないから」
「ははは。だいじょうぶだよ。きょうは、全然つれてないだろう。お母さんから笑われるぞー。もう少しねばってみよう」
でも、お父さんとタローちゃんは、魚つりを切りあげて帰ることにしました。はやくかえりたくて落ちつかないタローちゃんが側にいたのでは、お父さんも、ゆっくりと魚を待っていられなかったからです。
空色の魚は、金魚鉢の中で、せわしげに動いています。ひろい川で泳ぎたいっていっているようです。何日かたってタローちゃんは、おかしなことに気づきました。金魚鉢の水が毎日、口のところまであふれるほどに、いっぱいになるのです。こんなにたくさん、水を入れたはずはないのに・・・。
「ぼくの金魚鉢に水を入れたのは、お母さんなの」
「いいえ、知りませんよ、お母さんは」
「じゃ、お父さんかな」
ところが、だれにも金魚鉢に水をつぎたした人はいないのです。それなのに、毎日、水は、あふれるばかりになるのです。お母さんが、いいました。
「タローちゃん。きっとそのお魚ね、もとの川にかえりたいって泣いているかもしれないわよ。魚の涙で、水がふえるかもしれないわよ。川にもどしてやったら?」
お母さんは、タローちゃんが、空色の魚に夢中になってあまり勉強に身が入らないようなので、少し気になっていたのです。
「お母さん、お母さん。大発見だよ、ちょっときてみて。この魚の目、変だよ。まるくないよ。ほら見てごらん、星の形をしているよ。はやく、きてったら、お母さん」
タローちゃんが、あまりうるさくいうのでお母さんも、魚の目を見にきました。
「あら、ほんとだわ。星の形じゃないの。まあ、ちょっと気味がわるいは」
「そんなことないよ。金色しているよ。お星さまの目だよ」
それから、タローちゃんが、このことを学校の友達に話したから、たいへんです。タローちゃんの友達が、ぞくぞくと、星の目の形の魚を見にきました。学校の生物の先生も、見にいらっしゃるということになりました。タローちゃんは、空色の魚がますます評判になっていくのでうれしくてたまりません。
「そのうち、うーんと有名になって、新聞記者が取材にくるかもしれないなあ、そして、マンボのように水族館で、たいせつ育てられるようになる・・・わあ、すごいぞー」
タローちゃんの想像は、果てしなくつづいていきます。 (つづく)