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シスター三木の創作童話

“聖夜”

 コバルトブルーの上にうすくバイオレットブルーをかさねたような深い色の空。星の美しいユダヤの国でしたけど、その夜の星はいつもとちがっていました。

 「マリア、あそこに見えるあかり、あれがベトレヘムの町です。つかれたでしょう。でも、もうすぐです。寒くありませんか」
 ロバのたづなを引く背の高い男の人がいいました。ロバの背の女の人が答えます。
 「いいえ。ヨセフあなたこそ、おつかれになったでしょう」
 おたがいの思いやりの心が、夕暮れの澄んだ空気の中にとけていきました。この二人は、皇帝アウグストの命令で故郷に名前をとどけに行く、大工のヨゼフとその妻マリアでした。

ご降誕

 ヨゼフは、砂地を一歩一歩ふみしめながらこの数か月間に起こったふしぎな出来事を思い出していました。  「ダビドの子孫ヨゼフ。心配しないでマリアを妻として迎えなさい。マリアは神さまの御はからいで子を宿しています。マリアは、男の子を生みます。その子にイエスと名をつけなさい。この子は、すべての人の救い主です」
 これは、ヨゼフにあらわれた天使ガブリエルのことばでした。おなじようにマリアも、ロバの背にゆられながら、天使のお告げを思いめぐらしていました。

 「おめでとう、マリア。おそれないでください。わたしは、神さまの大きなめぐみをもってきました。あなたは男の子を生みます。その子にイエスと名づけなさい。その子は、神の御子です。人々を罪からすくう救い主です」

 マリアは、心の中で神さまをたたえて歌っていました。
「神さま。わたしの心は、あなたのめぐみにあふれています。わたしは、ほんとうにつまらないものです。すべて、あなたのおのぞみのとおりになりますように・・・」
 二人は、ベトレヘムの町につきました。町の通りは、名前をとどけに来た人たちでにぎわっていました。どの宿屋も満員で二人をとめてくれるところがありません。長い旅路でつかれているマリアのことを思うヨゼフの顔にあせりの色が見えました。
 「ヨゼフ、心配なさらないで。きっと神さまがおみちびきくださいます」
 マリアのことばに勇気づけられたヨゼフは、また一軒一軒宿をたずねていきました。親切な宿の主人が、
 「きょう馬小屋の敷きわらをかえたばかりだから・・・」
 といってヨゼフを案内してくれました。入ってきた二人が、だれだかわかったのでしょうか、馬小屋の家畜たちは、壁側に寄って二人のために場所をあけてくれました。
 「ありがとう」
 ヨゼフは、やさしく牛の首をたたいてやりました。

 夜空に星が高くのぼりました。馬小屋の外に人の気はいがしてきました。帽子を胸に羊飼いたちが、おそるおそる馬小屋に近づいてきます。馬小屋の中をのぞいた牧童たちの顔が、ぱっと輝きました。年かさのひとりがいいました。
 「天使のしらせで、お生まれになった救い主をおがみにまいりました」
 「天におられる神さまに栄光、地上の人々に平安がありますように・・・」
 羊飼いたちが歌う賛美の歌が天使たちの声とひとつになって、ベトレヘムの空にこだましてひびきました。
 馬小屋のかいばおけにやすらかにねむる赤ちゃん。この幼児こそが、旧約時代の人々から語りつがれ、みんなが待っていた“神の御子、救い主イエス・キリストさま”なのです。

 遠い東の国から星占いの学者たちが、ベトレヘムをめざして旅立ちました。東方の賢者たちをみちびいた星、それはふしぎな星でした。それは、救い主をさがし求める人には、いつの時代にもあらわれる星なのです。

 しずかなベトレヘムの夜。小さな馬小屋から子守唄がきこえてきます。ヨゼフはマリアさまの方が冷えないようにと、そっとマントをかけて上げました。
 それは、どの家庭にも見られる、あたたかなひとつの光景でした。


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