home>シスター三木の創作童話>あした天気になあれ
耳の長いうさぎは、動物村のパトロールです。長い耳は、アンテナのかわりをします。どんな音でも聞きつけて、危ないときはすぐに知らせることができるのです。
「この間の大雪で地面が凍ってしまったなあ。これじゃ食べ物をさがすのもひと苦労だ。うちのかあさんは、“今年の冬中、食べ物はだいじょうぶよ”なんていってたけど、ほんとにそうかな・・・」
うさぎのパトロールは、くまの家をのぞいて見ました。
「くまさん一家はよくおねむりだ。うさぎもああやって、ねむって冬を過ごせると楽なんだがなあ・・・。どれ、おつぎは、りすさんだ」
うさぎは、長い後ろ足で凍った地面をとんとんとけって、木の上のりすさんを呼びました。
「あら、どうもごくろうさま。えーっ、うちですか―ええ、いまのところなんとかやってますわ」
「それはよかった。こんなお天気ですからね、食べ物はたいせつにしてくださいよ」
うさぎは、きつねの家にもいきました。きつねのところでは、子ぎつねが風邪をひいてねていました。おかあさんぎつねがいいました。
「ねえ、うさぎさん、なんとかしてくださらないかしら、うちにはもう食べ物がありませんの。それにごらんのとおり、ぼうやは病気でしょう、主人は、もどってきませんし・・・これじゃ飢え死にしてしまいそうですわ」
おかあさんぎつねは、ふかふかの尻尾できつねのぼうやをあたためてやりながら、きんきん声でそういいました。うさぎは、村のパトロールなのですから、こんなときなんとかしなくちゃなりません。こころが重くなっていきました。
「― 一体、こんなとき、だれに食べ物をわけてくださいっていえるのだろう―外はおのとおりなんでも凍りついてしまったし・・・それにみんな秋のうちにはたらいてためておいた食べ物だもの。だいたい、きつねのおくさんがわるいんだよ。みんなせっせとはたらいているとき、涼しそうな顔をしてすすき野原で遊んでたじゃないか。いま頃になって―いやだなあ―ほんとに―」
うさぎは、家に帰る道で、いのししにあいました。いのししは、うさぎがたずねるまえにいいました。
「まあ、いいところであいましたわ、うさぎさん。うちの食べ物が底をつきそうですの。あしたのお天気の具合はどうかしら、はやく、この雪を溶かしていただきたいわ」
うさぎは大きなため息をつきました。みんな食べ物がなくなってきたので困っているのです。うさぎは、家につくとすぐいいました。
「ねえ、かあさん。きつねさんのところでは子どもが風邪をひいたらしくってね、ねてるんだよ。それでおくさんが看病してるんだけど、あそこのだんなさん。ほらこの間の事故でなくなっただろう、気の毒に。それで、食べ物のたくわえがなくて困っているらしいんだよ」
「あら、おとうさん。ひとごとではありませんよ。うちだって、これじゃいつまでもつかと心配なんですからね」
うさぎのおかあさんは、スープをつぎはじめました。大きなスープ皿に、にんじんがほんのすこし浮いているだけです。
「さあ、みんないらっしゃい。これでもうちは、まだ食べられるだけしあわせなのよ」
一番小さなうさぎがいいました。
「おかあちゃん。ぼく、きょう食べたくないの。お腹がいたいの。だからそのスープ、きつねさんにあげていい。ぼくもっていくよ」
おかあさんうさぎには、わかりました。うさぎのぼうやが、お腹がぺこぺこだってことと、きつねさんにスープをあげたいので、お腹がいたいなんていってるんだってことが・・・うさぎのおかあさんの耳が赤くなりました。小さなうさぎのことばに、恥ずかしくなったのです。おかあさんうさぎは、しばらくしていいました。
「だいじょうぶよぼうや。スープはたくさんあるの、あとできつねさんのところにもっていってね」
おとうさんうさぎの耳も赤くなりました。おかあさんうさぎのことばがうれしかったのです。うさぎの子どもたちの耳も赤くなりました。うさぎのぼうやにとってきつねの子どもは、いじめっ子でしたけど、病気でねているなんて“かわいそう”と思ったのです。
きつねの母子は、うさぎのぼうやがもってきてくれた熱いスープをのんであったまり、ふたりしてふかふかの尻尾にくるまって夢を見ていました。つめたい空に星がいっぱいです。
「ねえ、おとうさん、あしたお天気になったら、お日さまが、雪を溶かしてくれるよね」
「ああ、そうだといいね」
うさぎの親子は、それぞれに、きょうはいい日だったなあと思っていました。